人生における老化と希望(古希を迎えて)

2024年9月



 院長の清水です。
 今年の11月で、青葉歯科医院開業40周年を迎えます。
 また私ごとで恐縮ですが、今年の8月で古希を迎えました。
 古希(あるいは古稀)とは、若い方には馴染みのない言葉かもしれませんが、70歳のことをいいます。本来は還暦の満60歳以降は数え年で70歳を祝うのが習わしだそうですが、満年齢で祝うのもありということです。
 古希の語源は、中国・唐の詩人である杜甫の詩の一節「人生七十古来稀なり」という言葉に由来しています。当時の中国では、70歳まで生きる人は少なかったのでしょう。
 まずは、この歳まで無事に生きてこられたことに感謝しなくてはなりません。
 健康面では、幸運にもこの40年間、病気や怪我を理由に診療を休んだことはありません。ちなみにコロナ禍でも感染しませんでした。
もちろん、予約制の診療で、突然休診となれば皆さんにご迷惑をおかけしますから、そうならないよう、普段から体調管理には気を使っています。
 それでも、不測の事態に見舞われる可能性はゼロではありませんから、これは神様のご加護と感謝しています。
 一方で、70歳を迎えて複雑な思いもあります。
 先に述べたように、健康面で言えば大きな病気や怪我はしていませんが、体力の衰えを感じ愕然とすることがあります。
 例えば信号で横断歩道を渡る時、以前ならもうすぐ点滅が始まるだろうと小走りになったのに、最近では無理せず次の青を待てばいいと、走ろうとしないのです。
 下手に走って転倒でもしたら大変と、万一を考え慎重になっているのですが、それ自体がある意味、老化現象とも言えるのです。
 また、家の中で家具などによく足をぶつけます。感覚も衰えているんですね。
運動ではありませんが、キーボードの打ち間違いも多くなりました。
ジョギングやゴルフなどはしていませんが、毎朝テレビ体操、ジョウロを使った30分ほどの水やり(結構歩きます)、入浴後の腿上げ、エアロバイク、そして就寝前の腰痛体操とあいうべ体操(口腔機能の体操)をルーティーンとしています。それでも、寄る年波には抗えません。
 老化の進行を穏やかにする(=スローエイジング)よう、無理のない継続をしようと思っています。
さてもう一つ、複雑な思いになるのは、自分が若い頃想像していた70歳という存在は、もっと人間的に成熟していて、物事に動じず、かつ思慮深い言動を行うものだと想像していたからです。
孔子は論語の中で、「七十にして己の欲する所に従えども矩(のり)を踰(こ)えず」(70歳になってからは、心の欲するままに行動しても決して人の道の規範をはずれるようなことがない)と言っています。ちなみにこの言葉から、40歳を「不惑」と言うように、70歳のことを「従心」と言います。
さて、現実の私はどうでしょう。
恥ずかしながら、時には小学生の頃とさほど変わらない幼稚な感情を抱くことさえあります。
 実際にその感情にまかせて行動しないのは、「大人気ない」と思ったり、周囲の目を気にしたり、また自分の社会的立場を気にするといった抑制が働くからでしょう。もちろん歳相応に、相手の気持ちを慮って、ということもあります。
 ですから、「従心」に対し強いて言うならば、「心の欲するままに行動して、あとで後悔しないかよく考えよう」といったところでしょうか(笑)。
 さて、70歳ともなると、人生の行く末が見えてくるようになります。
 この先10年という年月は、10歳の少年にとってはそれまでの人生に対して10/10の時間で、何が起こるかわからないほどの不安と期待がありますが、70歳にとっては10/70で、起こりうることが何となく想像できるようになります。肯定的に捉えるなら、計画的に生きられるとも言えます。
人間誰しも、自分の将来の可能性が狭まったり、あるいは老いて行く末を実感すると、落ち込んだり、気分が沈むものです。
 でも、別の捉え方もあります。
 人間は皆、無限の可能性を持ってこの世に生まれてきます。そして周囲も無意識のうちにそう期待して育て、見守ります。
 そのまま、自分が思い描いた通りの人生を歩む人もいるかもしれませんが、それはごく一握りではないでしょうか。私も、13歳の時の父の死から始まり、幾つもの挫折を味わっています。
 大多数の人は、多かれ少なかれ挫折というものを経験し、何かを諦め、将来の選択をします。たとえ思い通りの将来を選択しても、必ずしも思い通りの結果が出せるとは限りません。それを、失敗とか妥協と捉えるかもしれません。でもあとで思うことですが、それは貴重な経験なのです。
何かを失うことも当然ありますが、何かを得ることもそれ以上に多いものです。順風満帆な時、人は脇が甘くなり、反省という大事な行為を忘れがちになります。一方、挫折により得たものは、本人にとって何ものにも代え難い蓄積(引き出し)、そして誰からも奪われない財産となります。それらは、人生が長いほど多くなり、その後の人生においてきっと勇気や力となるでしょう。
それを自分にも、そして皆さんにも役立てられるよう、今後の人生を歩んでいきたいものです。

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