新年らしい話題として、今回は「笑い」を取り上げたいと思います。
　「笑う門には福来る」「笑いは健康にプラスになる」と言われます。
　それは泣くよりはいいだろうとはなんとなく思うでしょう。しかし、意外なことに泣くことも健康にプラスになるのですが、そのことは別の機会で触れるとして。
　漠然と「笑いは健康にプラスになる」というイメージを、科学的に考えていきましょう。
　まず、「笑い」の効能としては、
1. 免疫力のアップ
2. 脳の活性化
3. 有酸素運動と筋トレ
4. 幸福感とストレスの解消
等が挙げられます。

まず「免疫力のアップ」について。
　ナチュラルキラー(NK)細胞をご存知でしょうか。自然免疫で主要な働きをするリンパ球の一種で、ウィルスに感染した細胞やがん細胞を破壊したり、その活動を抑制する働きをします。獲得免疫とは異なり、前もって腫瘍細胞への認識能を高めておかなくても標的の腫瘍細胞を溶解することができます。
　免疫システムは、脳の一部である間脳がコントロールしています。笑うとこの間脳に気持ちの高ぶりが伝わり、情報伝達物質の「神経ペプチド」が活発に生成されます。神経ペプチドは、ニューロン（＝神経細胞）の興奮や興奮の抑制を他の細胞に伝える神経伝達物質、神経機能調節物質のうち、比較的分子量の大きいものの総称です。ニューロン内で合成され、血液やリンパ液によって体内を巡り、ナチュラルキラー細胞の表面に付着しその働きを活性化します。免疫が正常に機能するためには、自律神経のバランスが重要です。特にストレスや緊張状態が続くと交感神経が過度に働き、免疫機能が低下することがわかっています。笑うことにより自律神経のうちの副交感神経が刺激されると血行が促進され、それによって運ばれる免疫細胞の働きがさらに活性化されます。
　また笑いには、血圧や血糖値を下げる効果があることも実証されています。
　
　次に「脳の活性化」について。
　笑うことにより、顔面にある表情筋が活発に動き、それにより顔面動脈が伸縮し、このポンプ作用により脳から心臓に戻る血流が増加します。これでさらに脳への血流も促進され、酸素を多く含んだ新鮮血が心臓から供給され、脳細胞が活性化されます。特に、前頭前野や海馬の活性化が注目されています。前頭前野は、思考や意思の決定の他に記憶や感情をコントロールする部分でもあります。海馬も短期記憶に関する部分です。ちなみに、口角を上げて笑い顔をつくるだけでも前頭前野の血流量が増えるという報告もあります。
　一定の課題に基づく言葉を想起する（イメージを言葉で表現する）機能は、前頭前野の高次元の機能とされていますから、この部分を活性化させることは、認知症の予防にも繋がります。
　また脳波を調べると、笑いによりα（アルファ）波が増えることがわかっています。
　α波は、心身ともにリラックスした状態の時に発せられるもので、最近では能力開発やストレス解消への効果としても研究されています。

　さて「有酸素運動と筋トレ」について。
　笑う時には、無意識に下腹部に力を入れて短く呼気を出すという運動をしていますが、これは腹式呼吸に近い呼吸法で、胸式呼吸の約3倍の酸素を取り込むことができます。肺から取りこんだ酸素が脳や臓器に行きわたり、細胞が活性化されます。一説では、１０分間の笑いは、３０分間のボート漕ぎに匹敵する有酸素運動だと言われています。笑いを続けることは「内臓のジョギング」とも言われ、心肺機能のみならず、呼吸筋や腹筋、表情筋のトレーニングにもなるわけです。

　最後に「幸福感とストレス解消」について。
　笑うことで下垂体から分泌される物質に、β（ベータ）エンドルフィンというホルモンがあります。先に触れた神経ペプチドの一種です。別名、ハピネスホルモンとも呼ばれ、満足感や達成感を感じた時に放出されますが、ストレスを緩和するために分泌されるとも考えられており、モルヒネの数倍の鎮痛効果があると言われています。
　同時に、ストレスホルモンとも呼ばれ、ストレスを感じた時に分泌されるコーチゾールというホルモンの分泌を抑制する効果もあります。

　人間、生きていれば楽しいことばかりではありません。それどころか、嫌なことや悲しいこと、苦しいことのほうが多いものです。
　でも、笑う気分になれない時は、作り笑いでもいいので口角を上げて笑ってみましょう。笑顔を作るだけで気分も明るくなり、心と身体に良い影響をもたらしてくれます。
　さらに、笑いは周囲に安心感を与えます。挨拶にちょっとしたジョークを入れると、途端にコミュニケーションがスムーズになります。
　ままにならない理不尽なことの多い現在ですが、ならば少なくとも自身は楽しいふりをするのも一つの生き方ではないでしょうか。