糖尿病と歯周病の深い関係

2023年10月



糖尿病は、持続的な高血糖と糖が尿へ排出される病気です。
2016年の厚労省の調査では、日本の糖尿病人口は、それが疑われる人も含めて推定で1000万人に上るとされています。まさに国民病です。

ところで、近々この「糖尿病」という病名が変更される見通しです。
理由は、「糖尿病」という名称が病態を正確に表現していないため、そして「尿」という名前がネガティヴなイメージにつながるため、ということのようです。
日本糖尿病学会と日本糖尿病協会から、「ダイアベティス」という病名への変更が提案されました。元々のラテン語の病名diabetes mellitus(=ディアベテス メリトゥス、略してDM)からの引用でしょうが、一般の人にとってはかえって意味がわかりにくいですね。
日本糖尿病学会も日本ダイアベティス学会と改名されるのでしょうか。

閑話休題。血液中の糖は、腎臓で血液から濾過される過程で水分とともに体に再吸収されますが、血糖が異常に増加して腎臓の処理能力を超えると、尿糖が検出されます。これが糖尿病の名前の所以です。
そもそも、血糖値が上がるとなぜいけないのでしょうか。
血液の中にはブドウ糖(グルコース)が含まれ、身体中を巡っています。これを血糖といい、血液中の血糖の濃度を血糖値といいます。
この血糖は身体中の細胞のエネルギー源となりますから、生命活動には必要不可欠な栄養素です。
腎臓では、血糖は血液から濾過され体に再吸収されますが、血糖値が異常に高くなると再吸収が追いつかず、再吸収できない分は尿の中に排出され、血糖値を下げようとします。
また血糖値が高すぎると、血液の粘性が増加し(いわゆる「ドロドロ」の状態)、それにより血液自体の流れが悪くなりますから、結果として酸素や栄養素が身体中に行き渡りにくくなります。また粘性が増加すると血小板が活性化され、血栓ができやすくなります。ことに細い血管でこの傾向が顕著です。ときには血管が目詰まりを起こし、血流が止まってしまうこともあります。
つまり、細胞の栄養素である血糖が多すぎると、血流が滞り栄養素が身体中の細胞に行き渡らなくなるという、皮肉な結果を招きます。
さらに、高血糖の状態が長く続くと、血糖は赤血球に含まれるヘモグロビンというタンパク質と結合し、糖化タンパク質になります。これがヘモグロビンA1c(グリコヘモグロビン)といわれているものです。糖化とは、食事などから摂取した糖分(ブドウ糖などの還元糖)内の、エネルギーとして使われなかった過剰分が体内のタンパク質と結合し、細胞にダメージを与えてしまう現象です。1、2ヶ月でこの結合は強固になるため、ヘモグロビンA1cの数値は、その頃の血糖の状態を反映しているといわれています。
高血糖の状態が長ければ長いほどヘモグロビンA1cは増加します。赤血球の寿命は約120日といわれていますが、一度糖と強固に結合したヘモグロビンは、赤血球の寿命が尽きるまで元には戻りません。
このように、糖尿病の合併症は主として血管の障害で、大血管症としての脳血管障害,虚血性心疾患,閉塞性動脈硬化症等がありますが、前述のように細小血管でもいろいろな障害が起こります。
まず、なぜ糖尿病で色々な障害が起こるかについて考えていきましょう。
糖化ヘモグロビンが増えると、細い血管を傷つけ、血管が詰まったり破れたりします。
腎臓は血液をろ過しますが、そのろ過装置である糸球体はごく細い血管からなり、そこが損傷すると腎機能障害を起こします(糖尿病腎症)。
また、光を感じる視細胞が集まる眼球の網膜では毛細血管が多く分布しているため、糖化ヘモグロビンが増えると、これらの毛細血管を詰まらせたり血管壁に負荷をかけ、その結果網膜の機能を低下させ視力障害、ときには失明に至ることもあります(糖尿病網膜症)。
さらに、血液の粘性の増加によって血流が低下すれば、神経細胞への酸素、栄養素の運搬が不足し、神経障害を引き起こします(糖尿病神経障害)。
つまり糖尿病とは、血液の流れが阻害され、その結果組織への酸素や栄養素、免疫細胞の運搬が障害されてしまう病気なのです。様々な症状は、組織の栄養失調、酸欠、免疫力の低下により引き起こされます。
歯周病も感染症の一つなので、糖尿病により症状が悪化する傾向があります。
一方最近では逆方向の影響、つまり歯周病をはじめとする感染症が血糖値を上昇させ、糖尿病を悪化させるという事実が注目されています。
感染症等、外からの細菌等による攻撃が起こると、免疫細胞はその「敵」を体内で認識し、炎症性サイトカインを誘導することによって生体の炎症(異物排除)を促し、免疫反応を活性化させます。
サイトカインとは、主に免疫系細胞から分泌されるタンパク質で、細胞間の情報伝達物質といわれるものです。
つまり、外からの「敵」の攻撃が起こった場合、その「敵」を認識してそれに対抗するために、免疫細胞から他の免疫細胞にその情報を伝える物質と考えていいでしょう。
サイトカインには、炎症を促進する炎症性サイトカインと、炎症を抑制する抗炎症性サイトカインがあります。
炎症とは生体と「敵」との戦い、つまり生体の防衛反応です。その戦いに味方の応援が必要な時には炎症性サイトカインが分泌され、一方戦いが落ち着いてくると、免疫反応が過剰にならないように抗炎症性サイトカインが分泌され、炎症が抑えられます。
歯周病が進行すると、その原因菌から出される内毒素が歯肉から血管内に入り、それにより炎症性サイトカインの分泌が促進されます。免疫細胞は細菌や内毒素といった「敵」と戦おうとしているわけですが、同時にこの炎症性サイトカインは、インスリン(血糖値を下げる働きをするホルモン)の効果を低下させてしまうのです。この状態をインスリン抵抗性といいます。すると、なんとか血糖値を下げようと、膵臓の内分泌器官はさらにインスリンを産生しようとしますが、この状態が長く続くと内分泌器官は疲弊し、ついにはインスリン産生機能自体が低下し、高血糖状態、つまり糖尿病を悪化させてしまうのです。
逆に言えば、歯周病をコントロールすることは、お口の健康を保つだけでなく、糖尿病の改善にもつながるというわけです。
そう考えると、毎日のブラッシング等のプラークコントロールも、より意義を感じながら行えますね。

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