今回は、いま感染拡大を続けている新型コロナウィルスに対して、正しい予防の仕方の参考になればとの思いから、花田先生のインタビュー記事を要約、編集したものをご紹介します。
ウィルスによる肺炎には、大きく分けて3つの種類があります。
1つはウィルス単独による肺炎、2つ目はウィルスと細菌の混合性肺炎、3つ目は一旦ウィルス性肺炎が治まった後、二次的に細菌性肺炎が起きるパターン。
インフルエンザの場合は2番目が多いのですが、新型コロナウィルスでは3番目のパターンが多いというデータが出ています。
細菌性肺炎の場合、その細菌はどこから肺に入り込むのでしょうか。
人間の体内には、2大細菌叢(細菌が塊を作って多く生息している状態)があり、それは腸内と口腔内です。腸内細菌が肺に行くというのは、解剖学的に考えにくい面があります。その点、口腔細菌の場合は、歯周病や(進行した)う蝕(=むし歯)があると、心臓を経由して肺に行ってしまうのです。
普通であれば、肺には細菌に対する防御機構がありますから、口腔細菌が来ても入り込むことはできません。しかし、新型コロナウィルスによって肺の上皮細胞が傷つけられた状態になると、そこに定着してしまう可能性が高くなります。
インフルエンザウィルスの場合は、侵入するところが上気道(気管より上の部分)のほうなのですが、新型コロナウィルスの場合、受容体(入り込む場所)であるACE2が肺胞にたくさんあるため、上気道を通過していきなり肺に行ってしまう可能性が高いのです。プロ野球選手やJリーガーが多く感染していますが、アスリートはスポーツなどで深い呼吸をすると思いますから危険性が高いのではないでしょうか。
2003年に流行したSARS1はかなりの強毒性のウィルスで、ほとんど細菌が関与する余地がなかったのですが、ご存知の通り今回のSARS2(新型コロナウィルス)は無症状の不顕性感染者が多く報告されていますので、ウィルス単独としてはそれほど強毒性ではないように思います。
そういう意味で、重症化の他のファクターとして口腔細菌の要素がかなりあるだろうと。
(口腔)細菌が肺に行くプロセスは2系統ありまして、一つは歯周病に代表されるように毛細血管から血流に入ってしまうルート。そうすると必ず肺の間質(血管や神経などのあるところ)まで行きますので、いわゆる間質性肺炎のリスクが高まります。もう一つは唾液中の細菌が誤嚥されることによって肺胞に入り肺胞性肺炎につながるのです。これがいわゆる誤嚥性肺炎です。
先ほど申し上げた通り、普通であれば肺の免疫機構で抑えられるはずですが、新型コロナウィルスによって上皮細胞が破壊されておりますので、容易に肺炎に繋がるわけです。
この二つの系統の肺炎を抑えるためには、それぞれに合った口腔衛生をしなければなりません。
間質性肺炎のリスクを下げるためには、歯周病やう蝕を予防するように歯みがきをしなければなりませんし、誤嚥性肺炎のリスクを下げるためには舌みがきが重要になってきます。
逆に言えば、二次的な肺炎で重症化さえしなければ、新型コロナウィルスはそれほど怖いウィルスではないということです。どうやって重症化を防ぐかが重要になるわけです。
今まで私どもは、歯周炎(=歯周病)が慢性炎症につながり、ひいては動脈硬化につながっていくという生活習慣病対策として歯周病予防の重要性を謳ってきました。
生活習慣病予防のためのキーワードは、菌血症とエンドトキシン(細菌がもつ毒素)血症で、おそらくこの二つが中心的な役割を担って生活習慣病を発生させているのです。そして、この菌血症とエンドトキシン血症は細菌性肺炎のリスクにもなっています。
実際のところ、重症化するかどうかの肝はサイトカインストームが発生するかどうかです。その引き金を引いているのは、歯周病菌のLPS、つまりエンドトキシンなわけですから、それであればエンドトキシンを口腔内から肺に入れなければいいというのが、予防歯科の立場なのです。
我々歯科医師がやるべきことは、先ほどお話しした細菌のコントロール(=増やさないこと)、もう一つが咀嚼系の維持、栄養のコントロール(=確保)です。
新型コロナウィルスの重症化患者を調べた論文でも、栄養失調の患者が非常に多いと言います。噛めていない人は栄養失調の可能性が高いことは明らかです。柔らかいものしか食べられない人は、ほとんど炭水化物でカロリーを摂って終わりになりますので、タンパク質だとか脂質だとかビタミン、ミネラルが不足しています。
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特に「withコロナ時代」では、予防歯科が重要だと思います。
まずは患者さんにしっかりとホームケアをしていただくこと。
プロケアに関しても、しっかり感染対策を講じていれば、過分な心配はいらないと思います。
ホームケア、プロケア両方で、口腔細菌を制御すれば、新型コロナウィルス感染症の重症化だけでなく、インフルエンザウィルスによる肺炎や誤嚥性肺炎のリスクを下げ、ひいてはほぼ全ての生活習慣病の予防にも繋がるのではないでしょうか。
(Dentalism July 2020 No.40掲載の記事の要約、編集)
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