年をとり、かむ、のみ込む、舌を動かすといった口の働きが衰えると、健康な人に比べて4年後の要介護や死亡リスクが2倍以上に高まる――。東京大学高齢社会総合研究機構は、65歳以上の千葉県柏市民約2000人を対象にした研究で、口の衰えが寿命を左右することを示す論文を2018年に発表しました。
ご存知のように、我が国はすでに超高齢社会に突入しています。
近い将来、多くの国民が100歳まで生きるようになるとも推測されています。
一方で、我が国の出生率は下がり、若い世代の人口は減少傾向にあります。
つまり、高齢者の人口が増える一方で、それを支える人口は減少するというのっぴきならない事態を迎えようとしています。
平均寿命が延びることはもちろん喜ばしいことですが、今後さらに進行するであろう少子高齢社会に適応するには、人の手を借りずに生活できる寿命、いわゆる健康寿命を延ばすことが何よりも肝心です。
実際、健康寿命が延びているものの、平均寿命に比べて延びが小さいという調査結果があります。
厚生労働省の2015年1月の発表によると、日本の認知症患者数は2012年時点で約462万人、65歳以上の高齢者の約7人に1人と推計されています。
現在、認知症患者はさらに増加傾向にあり、厚労省の推計によれば、団塊の世代が75歳以上となる2025年には、認知症患者数は700万人前後に達し、65歳以上の高齢者の約5人に1人を占める見込みです。
健康な高齢生活を送るためにも、認知症を予防することには大きな意義があります。
そんななか、咀嚼、つまりよく噛むことが認知症の予防に効果があることがわかってきました。
咀嚼により頬周辺の筋肉が伸縮すると、頬の内部にある翼突筋静脈叢といわれる静脈がスポンジ状になった部分がポンプのように圧迫、吸引され、その結果、頸動脈から脳への動脈血の供給が促進され、脳の活動が活発になります。
また咀嚼の際、歯を取り囲む歯根膜に力が加わると、この刺激は脳における感覚や運動、また記憶や思考、意欲をコントロールする部位の活性化に繋がるのです。
また、咀嚼により唾液の分泌が促進されますが、唾液に含まれるパロチンというホルモンは、骨や内臓、筋肉の発育を増進するとともに、老化を防止する成長因子も含んでいます。これも当然、認知症の予防に役立つはずです。
さて、アルツハイマー型認知症の原因と考えられている物質にアミロイドβタンパク質といわれるものがあります。
ある研究で、よく物を噛む事が出来る正常なマウスと、元々歯がなく柔らかい物しか食べられないマウスを比較したところ、歯のないマウスの方には、大脳皮質にアミロイドβタンパク質が沈着し、それが脳内に異常に凝集、沈着した老人斑とよばれるものが多数発生し、さらに、記憶や学習能力に関わる海馬の細胞数が少なくなっている事が判明しました。
つまり物をよく噛んで食べる事ことは、認知症の予防に大いに役立つのです。
そして、楽しく食事をする事は、同時に話す、笑うという脳への刺激も加わり、さらに効果が高まるはずです。
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