最近では、アルツハイマー病という病名はすっかり社会に定着しました。
アルツハイマーとは、ドイツの医学者の名前です。
アルツハイマー博士は、生前に妄想や記憶障害のあった人の脳組織を顕微鏡で調べ、脳の萎縮、脳内のシミのような組織(老人斑)と、糸くずのようなもつれ(神経原線維変化)を発見しました。
これを単なる老人性物忘れと区別し、アルツハイマー型認知症と命名しました。
つまり、アルツハイマー型認知症の病態(病気の状態)は、アミロイドβ(ベータ)というタンパク質が凝集した老人斑が脳神経細胞外に沈着したり、神経機能の維持に必要なタウタンパク質の神経原繊維変化が脳神経細胞内で起こることにより神経細胞が死滅し、結果として認知機能の障害が起こると考えられています。
前者のアミロイドβによる神経細胞の障害は「アミロイド仮説」と呼ばれ、特に注目されています。
アミロイドβは健康な人の脳にも見られますが、通常は脳内の老廃物として短期間で分解、排出されます。
しかし、正常なアミロイドβよりも大きな異常アミロイドβが作られると、それを排出することができず、脳内に蓄積してしまいます。
ちなみに構成するアミノ酸数から、前者をAβ40、後者をAβ42(Aはアミロイド)と言います。
蓄積のメカニズムはまだ十分に解明されていませんが、加齢などにより分解や排出がうまくいかなくなると、異常アミロイドβが蓄積し始めると考えられています。蓄積の結果、脳細胞の代謝が阻害され、死滅すると考えられています。
記憶の主体である脳細胞が死滅すれば、当然物忘れは進行します。
同時にアミロイドβは血管の内壁に沈着する場合もあり、これにより脳出血の原因ともなりえます。
最新の研究では、「アミロイドβ仮説」に基づき、毒性の強いAβ42の産生を抑え、分解や排出を促す方法が探求されています。
2010年に、アルツハイマー型認知症の発症について以下の仮説が提唱されました。アルツハイマー型認知症の原因と考えられている仮説の中でも、現在最も有力と言われているものです。
1.たんぱく質を分解する酵素の働きの変化により、蓄積しやすいアミロイドβの割合が増えて脳に溜まり始める。
2.アミロイドβの毒性により、神経細胞やシナプス(神経細胞同士を繋ぐネットワーク)が傷つけられ、糸くずのような神経原線維変化を起こす。
3.傷ついた神経細胞が次々と死んでいくことにより、脳が委縮し認知症を発症する。
さて、歯周病がこの認知症を悪化させるメカニズムが解明されつつあります。
アルツハイマー型認知症を発症しているマウスに歯周病菌を感染させ、感染させていないマウスと脳の比較を行った結果、前者は後者に比べ、アミロイドベータの量が1.4倍多かったことがわかりました。
歯周病菌が破壊された時に出るエンドトキシンという毒素が、血流にのって全身にそして脳にも運ばれます。その結果、免疫機構に関わるサイトカイン(細胞間の情報伝達物質)が増加し、これがアミロイドβを増加させると考えられています。サイトカインが関係するところは、歯周病が糖尿病を悪化させるメカニズムとよく似ています。
つまり、歯周病の予防は認知症の予防にもなるのです。
その他、アルツハイマー型認知症の予防として、アミロイドβを効率的に排出することが重要ですが、そのために日常的に以下のことに心がけるとよいでしょう。
1.有酸素運動
有酸素運動をすることで、神経細胞を活性化するホルモンが分泌されることやアミロイドβを分解する酵素を増やすことが期待できます。
また、運動後だとよく眠れるのでアミロイドβの排出にも好影響をもたらすと考えられます。
2.コミュニケーション
他人と会話をすることは脳を活性化させると言われています。特定の人と同じような会話をするよりも、色々な人と出会って新鮮な会話をするとより効果的です。
お年寄りは、孫などと積極的におしゃべりすることも大切です。
3.知的活動
頭を使いながら指先を動かすことを知的活動といい、これも神経細胞を活性化するのによいとされています。具体的には、囲碁や将棋、裁縫などがあげられます。
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