「次回の来院は2ヶ月後(あるいは3ヶ月後)になります」
診療後、当院の受付では、次回の来院日についてこんな会話が交わされます。
この来院の間隔はどう決めているのでしょうか。
実は、現在の歯周病の有無やその状態、歯石の付着状態、あるいはこれまでの状態の推移等で決めています。
歯周病の状態とは、歯周ポケット(歯と歯肉の境界にある溝)の深さ(=EPP)、プローブ(その深さを測定する器具)による出血の有無(=BOP)、歯の動揺の有無やその程度、痛みや腫れの有無等です。
厳密には、健康な歯周組織(歯を支えている組織)の場合、ポケットという用語は使わずサルカス(生理的歯肉溝)といいますが、通常は面倒なのでポケットという用語を準用しています。
歯周組織の状態が健康、あるいは安定した場合とは、EPPが前歯部で2mm以内、臼歯部で3mm以内、そしてBOPやその他の症状がない状態を指します。
軽度の歯周病とは、ほとんどの部位でEPP3mm以内、EPP4mmBOP(+)の部位が1、2ヶ所程度、そしてその他の症状がない状態です。
それより進行して、EPP4mm以上6mm未満、BOP(+)の部位が多ければ中等度、さらにEPP6mm以上の部位、BOP(+)の部位が多ければ重度の歯周病となります。重度の場合、物をかみにくい、歯肉が腫れる、歯の揺れが大きいといった自覚症状も当然あるでしょう。
歯周組織が健康な場合には、4.5ヶ月に一度のメインテナンスで良いでしょう。中には、1年に一度のメインテナンスで全く問題ない方もいらっしゃいます。
軽度の場合、あるいは症状がある程度安定している場合には、3、4ヶ月毎に歯周ポケットをクリーニングすれば、歯石やプラークの付着を格段に減らすことができ、清潔な状態をより長く維持することが可能となります。
逆に重度の場合には、1ヶ月に一度のメインテナンスでも不安な場合もあります。
歯石を除去する際にスケーラーという器具を使いますが、スケーラーには手用のものと超音波スケーラー、エアースケーラーという振動を利用する機械式のものがあります。
こびりついた歯石や歯周ポケット深くまで付着した歯石を除去するには、スケーラーを使う際、力を入れたり、時間をかける必要があります。時には麻酔が必要なこともあります。
その分、器具の刃で歯の表面を傷つける危険性も増えます。
歯肉が退縮(下がる)して、エナメル質より軟らかい歯根(歯の根の部分)が露出している場合には、その危険性はさらに高くなります。
処置後に研磨剤を使用するのは、処置によって傷ついた歯の表面を滑らかにしたり、フッ素で表面を保護するためです。
一方で、少量の付着したばかりの歯石は、スケーラーを使って短時間で容易に除去することができますから、その危険性はずっと低くなります。
プラークの付着のみの場合には、デブライドメント(狭義)といって、さらに力を入れない処置で済みます(広義のデブライドメントには、歯石除去=スケーリング等も含まれます)。
ですから、歯石等の付着が少ないうちに除去することが重要なのです。
また、むし歯や歯周病の原因菌は、一旦除去したのち、3ヶ月程で繁殖力を回復することもわかっています。
特に歯周病の原因菌は(グラム陰性)嫌気性菌といって、空気に触れない部分、つまり歯周ポケットの底の部分のほうが活動や繁殖が活発になります。
この部分は器具が届きにくく、歯周病が厄介なのはこのためです。
代表的な原因菌として、アクチノバチルス・アクチノマイセテムコミタンス(A.A菌)、プロフィロモナス・ジンジバリス(P.G菌)、プレボテーラ・インテルメディア(P.I菌)、スピロヘータなどが挙げられます。
(酒田市 日吉歯科診療所HPより引用)
これらの細菌をポケット内に付着させないことが歯周病の予防です。
そして、一旦歯周病になった場合には、一連の処置後に、これらの細菌を再度ポケット内で増殖させないことがメインテナンスの目的です。
さて、メインテナンス後に当院では、4ppmのオゾン水でポケット内を洗浄することがありますが、これはオゾン水の酸化作用による殺菌効果をねらっています。この濃度のオゾン水は組織には害がなく、浮遊した(歯根から剥がされた)菌には殺菌(酸化)洗浄作用があります。しかしオゾン水は、短時間で自らは還元され、普通の水になってしまいます。
そこで、ネオステリングリーンという口腔洗浄剤をお出しすることがあります。
これは塩化ベンゼトニウムという薬剤で、陽イオン界面活性剤、簡単に言うと逆性石鹸の一種です。
私たちが汚れ落としに使う石鹸や合成洗剤は、水に溶けるとマイナスに帯電して陰イオンになります。
一方、逆性石鹸は水の中でプラスに帯電し陽イオンになります。
逆性石鹸はプラスに帯電しているので、マイナスのものに引き寄せられます。
細菌やカビは、マイナスに帯電するタンパク質やセルロースが主成分なので、そこへ逆性石鹸を近づけると、陽イオンが細菌やカビの細胞表面に強く吸着します。そして、タンパク質やセルロースを変性させて細胞膜の構造を破壊し、殺菌するのです(ちなみに細胞膜を持たないウイルスには効果がありません)。
これは、グラム陽性、陰性双方の細菌に有効とされています。
副作用として、まれに過敏症の方がいるそうですが、発生頻度は多くはありません。
深いポケットには、ブラシに原液のまま2滴ほどつけ、その部位にマッサージの要領でつけていただくこともあります。
一旦歯周病になると、間隔の差こそあれ、メインテナンスで長いおつきあいになります。ですから、できるだけ来院が苦痛にならないように、そして来院が励みになるように当院でも努力していきたいと思います。
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