口が乾く、舌がヒリヒリする、口内炎ができやすい---こういった症状で来院する方が増えています。
ドライマウス(口腔乾燥症)がこれらの原因になっている場合が少なくありません。
蛇足ながら、「かわく」には、「乾く」と「渇く」があり、音(おん)は同じですが、前者は水分がなくなることを指し、後者はのどが渇く、つまり水を飲みたくなる状態を指します。ですから今回のドライマウスは前者の意味になります。
無意識のうちにも、自分の体調をコントロールする神経を自律神経といいます。自律神経には、活動やストレスに対応する交感神経と、体力を温存しようとする副交感神経があり、大雑把にいうと、それぞれが反対の働きをし、その強弱でそのときの状況に応じたバランスを保っています。
ヒトは、興奮状態では自律神経のうちの交感神経が活発に働きます。唾液の分泌に関していえば、ねっとりとした唾液を少量分泌します。ちなみに副交感神経が優位に働くと、サラサラの唾液を量多く分泌します。
ドライマウスという状態は前者で起こりやすくなります。つまり興奮状態であったり、ストレスで眠れなかったり、ある事に根(こん)を詰めるという状態が続くと、口の中はねっとり感が強くなり、ドライマウスに近い状態を呈します。
その他の原因として、長期に服薬をしている方にも、ドライマウスの症状が出やすくなります。特に、高血圧や精神疾患などで処方される薬の多くは、唾液の分泌を低下させる副作用があります。
また、糖尿病や腎臓病、更年期障害でもドライマウスは起こりやすくなり、シェーグレン症候群などのように、目や口が乾くという症状を呈する疾患もあります。
さらに、鼻炎や花粉症等が原因で鼻が詰まると、口で呼吸します(口呼吸といいます)が、これもドライマウスの原因の一つとなります。寒い時期には、冷たく乾燥した空気がそのまま肺に入りますから、風邪や呼吸器系の疾患も起こしやすくなります。
お茶やコーヒーの飲み過ぎもドライマウスの原因となります。これらにはカフェインが含まれていますが、カフェインには利尿作用があり、体内の水分の排出を促すため、これが過度に進むと唾液の分泌も抑制されます。
ドライマウスになると、唾液の免疫力や洗浄力が歯や口腔粘膜に働きにくくなるため、虫歯や歯周病が進行しやすくなります。
同じ理由から、口臭、歯の色素沈着、口内炎の原因にもなります。
さらに、高齢者では食事での嚥下がしにくくなり、誤嚥性肺炎を引き起こしやすくなります。
ドライマウスの原因自体を取り除けば、ドライマウスの症状は消えます。しかし、原因除去が難しいことも少なくありません。
そんな場合でも、症状を軽くする、つまり口の中の乾きを改善させることはできます。
まず、口や顎を動かすことで唾液分泌を促されます。人と会話をしたり笑ったり、また楽しく食事をするという行為は唾液腺を刺激し、低下した唾液分泌を補うことができます。口腔が乾燥していて食事がしにくい場合には、食物にとろみを加えることも必要かもしれません。片栗粉を加えたり、とろみ調整食品を利用しましょう。
ガムを口に入れておくというのも有効な方法ですが、この場合、口に入っている間無意識にかんでいますから、顎を使いすぎ、顎関節症の症状を引き起こすこともあります。時間を決めて吐き出し、顎を休めるようにしましょう。
また、顎の下から耳の下にかけての頸部を手のひらでマッサージして、唾液腺を刺激することも有効です。
また、やや酸味のあるものは、唾液の分泌を促します。
それでもドライマウスの症状が改善されない場合は、口の中に潤いを与える保湿剤(薬局で購入できます))を利用してみましょう。さらっとしたタイプとややとろみのあるタイプがありますから、それぞれの症状に合わせて選びましょう。
最後に、気持ちをリラックスさせると副交感神経が活発になり、さらっとした唾液の分泌が促されます。好きな音楽を聴く、軽い睡眠をとる、ゆっくり散歩をする等、ご自身に合ったリラックス法を取り入れてみましょう。
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