患者と医療機関の利益

2016年10月



 医療とは、最も単純な表現では、「医術・医薬で病気やけがを治すこと」と定義されています。
 確かにこれは、医療に携わる者の任務、あるいは具体的な作業です。
 しかし患者本人にとっては、「病気やけが治る」のは目的ではなく、プロセスのひとつではないでしょうか。
 つまり、究極の目的は、病気やけがといったトラブルから解放されることによって、心や体が自由になること、そして自分らしい生活が送れることではないでしょうか。
 最近ではこれを、「QOL(Quality of Life=生活の質)の獲得」といいます。
 患者がQOLを獲得してくれたら、医療に携わる者としては患者本人とともに心から喜び、そしてこれは職業人としての冥利に尽きます。
 まさに、患者と利益が一致した瞬間です。

 さて、医療機関や医療に携わる者は、医療を家計の収入源、つまり生業(なりわい)としているわけですが、残念なことにときとして患者と利益が一致しないときがあります。
 もちろんこれは極端な例ですが、皆が健康で「病気やけが」がなくなったとき、医療機関は収入源が断たれてしまうのです。
 「病気やけが」がないことは人類にとって大きな幸福であるはずなのに、それを両手を挙げて喜べないとはなんと悲しい宿命でしょう。
 特に、日本のように主として出来高払制(それぞれの医療行為に対し、点数という診療報酬が決められている)の医療制度のもとでは、その傾向が強くなります(一部、包括制も導入されています)。つまり、処置をすればするだけ、医療機関の収入が増えるのです(もちろん、制度上の制約はあります)。
 人々は「病気やけが」になりたくないのに、医療機関にとってはある程度病人やけが人がいなくては医業が成り立たないのです。
 この構図を思うとちょっと気持ちが重たくなりますね。

 ところで、歯科医療では長年、むし歯と歯周病が二大疾患とされてきました。
 これらの疾患は、重症や特別なケースを除き、生活習慣の改善と原因の除去により、予防や進行の抑制が可能な疾患です。
 歯科を最初に受診するきっかけは多くの場合、これら二大疾患をはじめとするお口のトラブルでしょう。
 その受診が健康維持、回復への「気づき」になったとすれば、それは貴重なきっかけだったといえるでしょう。
 そしてその後、定期的なメインテナンスを続けるという行動が定着すればこれは素晴らしいことです。
 なぜ素晴らしいのか。
 それは、小さなトラブルにより大きな健康観を身につけたということ、そしてなにより、通院される方と医療機関との利益が一致しているということです。
 どうか、歯科医院をそのようにご利用ください。

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