日本は、世界に冠たる「長寿国」です。
厚生労働省の発表では、2014年の日本の平均寿命は、男性が80.50歳、女性が86.83歳となっています。
一方で、日常生活に制限のない期間を健康寿命といいますが、平均寿命と健康寿命との間には、男性で約9年、女性で約13年の隔たりがあります。
今後は、この隔たりをいかに小さくして、命の終わりまで健康にいきいきと生きられるかが課題となりそうです。
さて、高齢者のお口のトラブルというと、歯を失ったり歯が揺れて食事がしにくい、義歯が合わないといったことがまず挙げられると思います。
これらのトラブルは、元を正せばむし歯や歯周病が原因となっていることがほとんどです。
歯科の衛生知識、意識の向上、そしてフッ素の応用により、30年ほど前に比べ、若年者のむし歯は驚くほど少なくなっています。このことはもちろん素晴らしいことで、むし歯は予防できるということの確たる証明といえましょう。
生えたばかりの歯は、唾液中に含まれるカルシウムやリン酸を常に取り込み、徐々に硬組織としてより安定した構造、つまり酸などに侵されにくい構造になります。これを「石灰化の亢進」といいます。
成人になるとこの石灰化は完了していますから、若年者よりむし歯になりにくくなります。
しかし、今度は逆に、歯周病の罹患や加齢に伴う歯肉の退縮(下がること)という問題が起こってきます。
2012年に発表された鹿児島大学の仙波伊知郎の研究では、ほぼ健康な歯周組織(歯を支える歯肉や歯槽骨等)の人で、20歳から80歳までの60年間に、10年毎に0.6mmずつ歯肉の退縮が起こったとされています。つまり、歯周病のない人でも、80歳になると若い頃に比べ、約4mmほど歯肉が下がり、結果的に歯根(しこん:エナメル質に覆われていない歯の根の部分)が露出するということです。歯根はエナメル質より無機質成分が少ない象牙質から成っています。
ということは、当然エナメル質よりも酸に侵され(脱灰といいます)やすいといえます。
歯質の無機質成分が溶け出す最も弱い酸のpH(水素イオン濃度指数)を臨界pHといいます。
実際、エナメル質の臨界pHは5.5、象牙質では6.0〜6.2です。
ちなみに、主な食品のpHは次の通りです。
pH5:バナナ、炭酸飲料、ウイスキー、コーヒー、トマト
pH5.5:紅茶(砂糖なし)
pH6:魚、タマネギ、キュウリ、キャベツ、煎茶、緑茶、ウーロン茶
私の好きな赤ワインなどはなんとpH2.6、健康食品と言われている酢はpH3です。
健康のために黒酢を毎晩飲んでいる方は要注意です。
少なくとも、飲んだ後は口をすすぐことをお勧めします。
単純計算で、口に残った酸をその100倍の水ですすぐ(希釈)ことができれば、pHで2上昇、もう一度同じ水の量ですすげばpHは4上昇することになります。これなら、なかり中性に近づけることができますね。
その他、高齢者の場合、手の動きや手や口の感覚が若い頃より鈍くなります。つまり、ブラッシングが徹底されにくくなり、むし歯のリスクが高くなります。
さらに、降圧剤(血圧を下げる薬)や精神安定剤等の向神経薬を服用していると唾液の分泌が抑えられ、これもむし歯の誘因となります。
一人暮らしで、周囲とのコミュニケーションが少ない高齢者ほど、むし歯のリスクが高いという報告もあります。
こういったむし歯高リスクの世代が行う予防策をあげてみましょう。
まずはフッ化物の応用です。
ブラッシングには、フッ素入りの歯磨きペーストやフッ素のジェルを使いましょう。ペーストの場合、研磨剤が入っていることが多いので、力の入れすぎには注意しましょう。
ガムを噛んで唾液の分泌を促進させるのも効果的でしょう。ただし、ガムが口に入っていると、無意識のうちに噛むという行為を繰り返しますから、顎に負担を感じたら止めましょう。
そして先ほど触れたように、酸っぱいものを食べた後は、口をよくすすぎましょう。
歯科医院で、定期的にチェックをしてもらうことも心がけましょう。
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