歯にインレー(部分的な被せ物)やクラウン(歯の大部分、あるいは全体を覆った物)などを装着する場合、セメントと呼ばれる合着材、接着材を使います。
ここでいう合着とは、機械的な力で固定すること、接着とは化学反応によって結合させることを指します。
かつては、リン酸亜鉛セメントと呼ばれる合着材が長い間主流でした。
その後、耐久性、層の薄さ(伸びの良さ)、歯髄(神経)への刺激性等が改良されたセメントが次々と開発され、現在に至っています。
そして最近は、グラスアイオノマーセメント、グラスアイオノマー系レジンセメント、接着性レジンセメント等が主流となっています。
一方で、歯とかぶせ物との合着力や接着力には、歯とかぶせ物との接触する面積も大きく影響します(その他、水分、層の厚さ、初期固定の仕方等も関係します)。
接触面積が大きい方が合着力や接着力は当然大きくなりますが、一方で最近はMinimal Intervention(以後、MI)=最小の侵襲(歯の切削を最小限にとどめること)という考え方が主流となっています。
歯は、削れば削るほどその寿命が短くなる傾向があるというエビデンスに基づく考え方です。
つまり、接触面積を増やすより、セメントの合着力、接着力で被せ物を歯に装着する傾向があるのです。 私もその考えには賛成です。
しかし見方を変えると、元々残っている部分が少ない不利な歯を残したり、揺れている歯を残そうとすることも、広い意味ではMIなのです。
この場合には、不利な条件のもとで歯を残していますから、やはり外れる可能性は高くなります。
かぶせて何の症状もなければ、普段は自分の体の一部のように一体化して感じられるものです。ですからいざ外れた時、本人は相当ショックなはずです。
歯や被せ物が欠けたり変形したりすると、作り直しになります。また、歯が大きく割れた場合には、抜歯になることもあります。
でも、外れた物が再度使えるケースも案外多いものなのです。
単に外れただけなら、概ね3日以内ならそのまま再度装着できます。そして外れてから1週間を越えると、何らかの調整が必要となる場合が多いようです。
いずれにしても、外れた原因を診査し、原因を除去してから装着しないと、また外れる可能性が高くなります。
よく、「ちょっと着けてくれれば」と簡単に考える方もおりますが、口の中という、温度変化や水分、いろんな方向への力がかかる過酷な環境の中で、被せ物を外れないように装着するのはそう容易ではないことをご理解ください。
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