久しぶりに歯ブラシのお話をしたいと思います。
お口のケア用品といってまず挙げられるのは歯ブラシでしょう。
それほどみなさんの生活に密着している歯ブラシですが、その毛先はここ20年で劇的に変化しました。
その前に歯ブラシの歴史についてちょっと。
古来は歯を磨くには楊枝を使っていました。これは爪楊枝ではなく房楊枝と呼ばれるもので、細い木の枝をブラシのように一方の端を噛み砕いて使用していました。楊枝で歯を磨く習慣がいつから始まったかは不明ですが、仏典に釈迦が楊枝を使って地に投げたところたちまち根づいて大木となった話があり、当時既に楊枝が使用されていたことがうかがわれます。日本でも歯ブラシが一般化するまでは房楊枝が一般的に歯磨きに使用されていました。
(以上、Wikipediaからの引用)
これからは、現在のようなブラシの形になってからのお話です。
古いものでは、豚毛の歯ブラシがありました。毛の色が茶色のあれです。
アメリカ歯科医師会によると、1498年に中国の皇帝が豚毛を骨の柄に植えつけたものを歯磨きに使用したものが、最初の歯ブラシであるとしています。
実はこの歯ブラシ、その感触が好きだという方々に根強い人気があって、現在も市販されているそうです(柄は骨ではありませんが)。確かにあのソフトな感触はナイロンのブラシにはないものです。ただし、使っているうちに磨耗により徐々に毛が短くなり、その分しなやかさが失われること、また乾燥しにくいという衛生上の問題には注意が必要です。
そういった管理のしやすさからナイロンの歯ブラシができたのが1951年のことだそうです。
その後、時代とともに変わったのは主に柄の形態です。
手首をくるっと回すいわゆる「ローリング法」が一世を風靡した頃、回転しやすいようにと柄の断面が6角形になったり、奥まで届くようにと柄が折れ曲がったもの等が現れました。
その後、歯の凹凸に合わせた「山切りカット」、毛先が曲面で当たるように丸くカットしたもの、また毛先を丸く処理したものや玉状に処理したもの等、いろんな歯ブラシが登場しました。
さて、現在のお話です。
当院では、成人の歯ブラシとしてライオンのシステマ44(あるいは42)H・Mをお勧めしています(市販のシステマは毛束が1列多く、その分ヘッドがやや大きくなります)。これは毛先が極細に処理されています。
1993年にシステマが登場した時は、それまで円柱状(元と先が同じ太さ)だった毛先をどうやって先細りにするのか(スーパーテーパード毛というそうです)、話題にのぼりました。実は、薬液で溶かすんだそうです。ナイロンではうまくいかず、飽和ポリエチレン樹脂という素材を使っているそうです。
この歯ブラシ、歯周ポケット内あるいは周囲の狭まった部分のプラークを除去するために開発されたもので、たとえば歯の膨らんだ面を磨くには、先細ではない歯ブラシの方が適しています。それはコシが強いためです。「歯がツルツル」というあの表現の清掃感です。
舌で触れて「ツルツル」というのは確かに気持ちがいいのですが、そういった面は実はむし歯や歯周病には無縁の場所なのです。問題は狭まった部分で、そういう部分には先細の毛先はとても届きやすいのです。
ただし、先細の毛先は小さく動かすことではじめてその効果が現れます。
大きいストロークでは、かえって歯間乳頭(歯と歯の間の山状の歯肉)を傷つけることがありますから、注意が必要です。
ちなみに、私もこの歯ブラシを常用しています。
(決してメーカーから依頼されたCMではありませんのであしからず。)
日本の歯ブラシの毛先はよく研究されています。
これは、日本人の口の中が欧米人のそれと比べて小さいこと、歯槽骨(歯を支えている骨)が薄く、硬い歯ブラシ等を力を入れて使用することで、容易に歯肉が退縮(下がること)してしまうからだと思います。
欧米で市販されている歯ブラシを見たことはありますか?
ヘッドがすごく大きく、毛先は太く硬いですよね。
繰り返しますが、私たち日本人の歯肉はデリケートです。
繊細なブラシの毛先と正しい使い方で、いつまでも健康な歯肉を維持し、日本人特有の繊細な味覚を楽しみたいものですね。
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