ご存じのように、歯周病の直接の原因は歯垢(しこう)、つまりプラークです。歯周病とは、歯垢の中の病原菌によって、歯を支える組織が破壊される病気で、むし歯と並び、歯を失う主な原因のひとつです。
以前より、この歯周病の進行を早めたり、症状を悪化させる二次的な要因として、糖尿病や高血圧、高脂血症、貧血、肝疾患、ストレスなどが挙げられていますが、リスクを高める生活習慣としては喫煙が挙げられています。
喫煙と歯周病との関係はほぼ解明されていて、二次的要因の最右翼とされています。
統計データによると、歯周病にかかる危険は1日10本以上喫煙すると5.4倍に、10年以上吸っているとさらに上昇し、また重症化しやすくなります。
タバコに含まれる一酸化炭素は、歯肉をはじめとする歯周組織への酸素の供給を妨げます。酸素は赤血球のヘモグロビンと結合して組織に運ばれます。ところが、一酸化炭素は酸素の200〜300倍ヘモグロビンと結合しやすく、そのため結果的に血液が酸素を運べず、歯周組織は酸素欠乏の状態になります。
また、喫煙により血液中に吸収されたニコチン、アクロレイン、シアン化物などは毛細血管を収縮させます。これにより、血液が末梢まで行き届きませんから、これも組織の栄養不足を招いたり、細菌と戦う好中球と呼ばれる白血球の働きを低下させます。また、IgAといわれる抗体やリンパ球の量も減少しますから、当然免疫力も低下します。
さらに喫煙者では唾液の分泌量が低下するため、唾液の免疫作用や洗浄作用が働きにくく、結果として歯垢や歯石が増えてしまいます。
ところが喫煙者の場合、血管の収縮により歯肉から出血しにくく、痛みも出にくいため、歯周病の進行に気づきにくいという困ったことが同時に起こります。
これでおわかりのように、喫煙は歯周病のみならず全身の抵抗力を低下させることが明らかなのです。以前イギリスで、外科医が喫煙者の手術をボイコットしたことがありました。喫煙者の手術の経過や傷の治りが悪いからというのがその理由だったのです。
喫煙というと、その影響を受けるのは呼吸器系と思われがちですが、心臓をはじめとする循環器系、その他全身に影響があること、そして本人のみならず、副流煙にさらされる周囲の方も重大な影響を受けるということを考えなくてはなりません。
では、禁煙により歯周病は改善するでしょうか?
答えは「イエス」です。
禁煙の効果は非常に迅速で、歯肉の血流は数日〜数週間で回復します。歯肉の黒ずんだ外観も、時間はかかりますが少しずつ本来の健康的な色に戻ります。また、禁煙後に一時的に歯肉が腫れたり赤くなったりすることがありますが、それは毛細血管の血流が改善されたために起こる一時的な症状です。
禁煙は歯周病の予防・治療のもっとも有効な対策のひとつです。過去に重度の喫煙歴がある方でも、禁煙をすると確実に歯周病のリスクは低下します。
「禁煙は無理」とあきらめないで、禁煙外来のある医療機関で是非ご相談下さい。