日本顎関節学会による顎関節症の定義を要約すると、あごの関節つまり顎関節周辺に何らかの異常があり、「あごが痛い」「あごが鳴る」「口が開けづらい」などが主な症状である慢性的な疾患をまとめて顎関節症と呼ぶ…となっています。
顎関節症では、顎関節周辺だけでなく、全身の様々な部位に症状が表れることもあります。例えば、頭痛、首や肩・背中の痛み、腰痛、肩こりなどの全身におよぶ痛み、耳の痛み、耳鳴り、難聴といった耳の症状、その他目の症状、さらには嚥下困難、呼吸困難、四肢のしびれといった多岐の症状を引き起こす場合もあります。
子供から高齢者まで幅広くみられる病気ですが、年齢では10代半ばから増え始め、20代から30代がピーク、そして女性は男性の2倍から3倍の来院数だそうです。
近年、若い方の来院が増加傾向にあることから、最近の若年層に特徴的な食習慣、生活習慣などにも関連があると考えられます。
かつては顎関節症の原因は噛み合わせの異常にあるといわれていましたが、現在では原因となる因子はいくつかあり、それらが積み重なってある限界を超えたときに発症すると考えられています。「くいしばり」「歯ぎしり」「歯をカチカチならす」などのことをブラキシズムといいますが、筋肉を緊張させて顎関節に過度の負担をかけ、ダメージを与えるため、最も大きな原因といわれています。
その他ストレス、左右の一方ばかりでかむ偏咀嚼(へんそしゃく)、うつ伏せ寝、頬杖(ほほづえ)をつく癖、あごの下に電話をはさむ、偏った睡眠時の姿勢、猫背の姿勢なども原因といわれています。また、合唱等で口を縦に大きく開ける動作を続けることが原因となることもあるようです。
そのなかで近年注目されているのは、TCH(tooth contacting habit)といって、食いしばるほどではないが、常時上下の歯を接触させる癖です。正常な場合、1日のうち上下の歯が接触するトータルの時間は、17分程度とされています。その他は上下の歯同士はわずかに離れているのです。これが軽い力であっても常に接触していると、歯の圧力センサーが緊張し、その情報を中枢に伝え、今度は中枢が咀嚼筋に緊張の信号を伝えるため、また噛み締めるという悪循環を生みます。
この場合は、日常的に目にするものにマークをつけておき、それを見たら体をリラックスさせるという習慣を身につけ、歯を接触させないという「よい癖」をつけるようにします。
食いしばった時の歯へのダメージを和らげるため、ナイトガードという保護装置を着用する場合もあります。
さらに最近は、子供が顎関節症を訴えるケースも増えています。原因は大人と同様ですが、学校生活、受験勉強、友人関係、親子関係など、最近では子供も予想以上にストレスを受けているということにも関係があるのではないかといわれています。
治療法は、原因の除去と症状の緩和に分けられますが、多くの場合双方を組み合わせて行なわれます。生活習慣の歪みが原因ですので、その原因が改善されれば比較的治りやすい場合もあり、重症の場合などを除けば、手術などにおよぶケースは稀です。心配でしたら、歯科医院への受診をお勧めします。