以前、歯のかみしめ、食いしばりが顎関節症や歯を傷める原因となるのでご注意を、とお話ししたことがあります。
今回は、常時口を開いていて口で呼吸をする(口呼吸)ことの問題について触れたいと思います。 かみしめに注意、口呼吸に注意となると、ずいぶん窮屈なことのように思えますが、口は物を食べたりしゃべったり、ときに呼吸をしたりと、日常生活の中で特に活発に働く器官なので、時々無理のない状態で休ませることが大事だと考えればいいのかもしれません。
口を開いていると、特に鼻がつまっていなくても無意識のうちに口で呼吸する傾向があります。
おそらく、径が鼻より口のほうが広いため、楽なのかもしれません。マラソン選手が後半苦しくなってくると口呼吸を始めますが、抵抗なく空気を吸い込むにはそのほうが効率がいいのでしょう。
ただ、これが習慣性になると話は別です。
どういったことが起こるのでしょうか。
口呼吸により、口腔粘膜(口の中の表皮)が乾燥します。粘膜は皮膚に比べて薄くデリケートなため、通常は表面が粘液で保護されています。口の他に目や鼻などがその例です。 口腔粘膜は、乾燥すると傷つきやすくなると同時に、唾液による免疫力が働かなくなります。実際には、口内炎やむし歯、歯周病に罹患する一因となります。
また、歯の着色が目立つようになります。これは、水性のペイント(ペンキ)が手や衣服についた場合、すぐに洗うと落ちますが、乾燥すると落ちにくくなるのと同じです。口呼吸により特に乾燥しやすいのは前歯なので余計に目立ちます。
さらに、歯並びの面からも問題があります。
歯列(歯並び)は、周囲の筋肉のバランスによってその位置を維持しています。内側からは筋肉の塊である舌の、そして外側からは前歯部は口唇の、また臼歯部は頬の筋肉の影響を受けています。習慣的に口を開いていると口唇の筋肉である口輪筋の力が働きませんから、舌の力に負け前方へ傾斜したり(前突)、上下の歯の間に隙間ができやすくなります(開咬)。
最後にこれはとても重要なことですが、口呼吸の方は、風邪をひきやすいという傾向があります。
鼻腔には血管が多く分布しています。これにより、鼻呼吸では、吸い込む空気は鼻腔を通る間に加温と加湿が行われます。さらに鼻腔から咽頭にかけてはリンパ組織が発達していて、免疫力を高めています。
口呼吸だとこの経路を通過しないため、特に冬などは乾燥した冷たい、しかも除菌されていない空気がそのまま肺に入りますから、風邪や気管支炎等にかかりやすくなるのです。
口呼吸の原因としては、鼻疾患、アデノイド肥大症(咽頭のリンパ組織が大きいまま残り、呼吸の障害になる疾患)、あるいはもともと歯の前突があり口唇を閉鎖しにくい場合等が挙げられます。
ちなみにここでいう鼻疾患とは、副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎(花粉症による鼻炎を含む)、鼻中隔彎曲症、睡眠時無呼吸症候群当を指します。
口呼吸の場合は、耳鼻科や内科の診断も重要となります。