少し前になりますが、「ためして○○!」という番組で、「食後すぐの歯みがきは歯に深刻なダメージを与える」とのコメントがありました.
本題に入る前に、まずここで「歯みがき」という言葉のもつ、ややもすると間違ったイメージを払拭しておきましょう.
「磨く」という言葉には「こすって艶を出す」という意味がありますが、歯のブラッシングはムシ歯や歯周病の原因となる汚れを除去するのが主な目的であり、決して艶を出すことではありません.逆に靴磨きのように大きなストロークで歯をこすると、歯の溝、歯と歯の間、歯と歯肉の間といった狭い部分に汚れが残りやすくなるだけでなく、かえって歯や歯肉にダメージを与えることにもなりかねません.そこで最近では、「歯磨き」という漢字を使わず、「歯みがき」と表記し、「歯みがき」というひとつの言葉として、ブラッシングと同義語として扱っている場合が多いようです.
閑話休題.
最初に紹介したコメントは、米シカゴに本部を置く総合歯科学会(AGD)での実験を受けて報道されたものです.AGDの学長であるハワード・ギャンブル医師によると、「食後すぐに歯を磨くと、食べ物に含まれていた酸を歯のより深い部分へ、より早く浸透させることになります。今回の実験により、歯磨きによって歯の腐食が促進されてしまうのは、食事をしてから30分以内であることがわかりました」とのこと。
この結果を踏まえて、「歯の腐食を防ぐには、少なくとも食後30分経ってから歯磨きをするのが望ましいです」ということです。
ここで「腐食」という言葉を使っていますが、簡単に「溶かされる」と置き換えてよいと思います.
この報道は、それまでの「食後3分以内にブラッシングする」という常識を根本から覆してしまいました.どちらが本当なのか、困ってしまいますね.毎日2、3回行うブラッシングですから、誤った方法で行うと影響も大きいと考えられます.
私たちが日常的に口にする食品には、アルカリ性の物に比較し、酸性のものが圧倒的に多いのは事実です.ジュースやお酒ももちろん酸性です.食事中はこういった酸性の食品が20分、30分口の中にありますから、主にカルシウムとリン酸からなる歯の表面はわずかながら溶かされます.たとえば、レモンをしばらく口に含んでから前歯をこすりあわせるとざらつきを感じますが、これは歯の表面が溶けているからです.もっと詳しくいうと、歯の表面の結晶構造は残っていますが、その間を埋める材質が溶け出し、「スカスカ」の状態になるのです。しかしそのざらつきはいつの間にか感じなくなります.これは、唾液に含まれるカルシウムとリン酸が溶けた歯の表面に沈着し、歯をもとの状態に修復するからです.報道によると、それに要する時間が30分以上ということです。その前にブラッシングで歯の表面をこすると、修復できない状態にまで結晶構造自体を壊してしまうということなのです.それに加え、酸を中和する唾液の機能(緩衝能といいます)を、ブラッシングで阻害してしまうことも問題視しています.なかなか説得力がありますね.
しかし実際問題として、食後30分経過してからブラッシングするというのは、夜などはある程度可能かもしれませんが、毎食後となると時間に余裕のある人以外には実践することはそう簡単ではありません.また、食品自体の酸性を放置したり、食品に含まれる糖分を細菌が分解し、その結果として作られる酸が歯を溶かしてムシ歯ができるわけですから、食後に急速に増殖する細菌を30分放置するというのは逆に問題ではないかという意見もあります.
とりあえず、私たちは食後のブラッシングに関してどう気をつけたらよいのか、現実的に考えてみましょう.
先の報道から、食後には歯の表面はもろい状態になっていることは事実のようです.ですから、このときに行うブラッシングは、硬い歯ブラシで研磨剤を多く含んだ歯みがき剤を使い、力を入れて大きなストロークでブラッシングするというようなことは避けた方がいいということになります.
つまり、歯にダメージを与えるようなブラッシングはするべきではないということです.でもよく考えてみると、これはブラッシングの基本ですよね.
基本はいつでも通用する、ということです。
そして、時間に余裕のある夜のブラッシングは念入りに行う、これも大切ですね.