かみ合わせとは、上下の歯の接触状態を指します。
まず、まっすぐに立つか正座して、視線は正面かやや下に、顔を含む頭部や頚部(首周り)、肩周辺の筋肉の不要な緊張をなくした楽な姿勢をとってみてください。
このとき、上下の歯同士が接触しているとすると、かみ合わせとして問題があります。
専門的にはこのあごの位置を「下顎安静位(かがくあんせいい)」といい、上下の歯の間には通常1〜3mm程度の隙間「安静空隙(あんせいくうげき)」があります。
さて、1日に私たちの上下の歯はどのくらい接触しているでしょうか。
意外かもしれませんが、ある研究によると平均約17分といわれています。
食事をしているのに?と思われるかもしれませんが、食事中でも上下の歯が接触している時間はそれほど長くはないのです。
例えばリンゴをかむ状態を想像してみてください。
丸ごとのリンゴにかみついたとします。
上下の前歯がリンゴの皮からかみ込み、次第に果実の中に入り込んでいきます。
しばらく入り込んでいくと、かみ込んだ側の部分がもとのリンゴから離断され、口の中に取り込まれます。その際、上下の前歯は一瞬接触するかもしれませんが、すぐに離れます。
そのあと取り込まれたリンゴは舌やほほの動きによって奥歯のほうへ運ばれ、かみ砕きが始まります。この際も上下の歯の距離を狭めていくとリンゴはさらに離断されますから、その時点で上下の歯は離れます。この繰り返しが咀嚼(そしゃく)です。
リンゴよりもっと芯のある食物、たとえばたくあんや肉などを咀嚼する際も、上下の歯が直接接触する時間は思いのほか少ないのです。かみしめていき、食片がある厚さ(薄さ)になると歯同士は離れてしまう場合が多いのです。
考えてみてください。
奥歯でのかむ力は、成人の平均で40〜50Kgにもなりますから、上下の接触する時間が長ければ歯のすり減り方は相当なものになってしまいます。
人間の歯は歯周組織(歯肉や骨、歯根膜等)によって支えられています。
歯と骨(歯槽骨)は歯根膜という繊維状の組織でつながれています。
歯根膜は厚さ約200μ(1mmの1/5) で、歯に伝わる衝撃を和らげるいわゆる緩衝機能と同時に、歯に伝わる力を感じる感覚器の役目もはたしています。この感覚とそれを脳に伝える感覚神経、そしてあごを動かす運動神経や筋肉との絶妙な連携で柔らかい食物、硬い食物をそれに適した力やかみ方で咀嚼することができるのです。
この歯根膜にかみしめという持続的な力が加わると、圧迫による貧血状態を引き起こし、血液の循環が滞り結果として歯周組織を傷めます(歯周病の原因にもなります)。
同時にこの刺激は自律神経のうちの交感神経を刺激し、いわゆる興奮状態を作り、これが再びかみしめを助長するという悪循環を引き起こします。
「歯を食いしばってがんばる」といいますが、この状態が許容範囲より長く続くと、体には悪影響を及ぼすのです。
歯の食いしばりは、「ここぞ」というときに集中して行い、いつまでもだらだら続けることは「百害あって一利無し」なのです。
最初の話に戻りますが、普段何げなく上下の歯が接触している場合、気づいたら肩の力を抜いて、歯と歯を離すよう心がけてください。