歯周病から糖尿病!?

2011年10月



 現在、日本の糖尿病人口は、約1000万人といわれています。
 糖尿病になると、いろんな合併症にかかりやすくなりますが、特に細菌やウィルスに感染しやすくなることはよく知られています。
 これにはいくつか、理由が考えられます。
1)高血糖の状態になると、細菌等が繁殖するための栄養が十分となります.
2)血液中の糖が増加する反面、逆に組織や細胞が低栄養状態になり、白血球の一種である好中球の機能が低下したり、細胞による免疫能(一度戦った細菌などに対しての防衛反応)自体が低下します
3)高血糖になると血液の粘性(どろどろ感)が上がるため、流れが滞りやすくなります。すると、特に細い血管が分布する指先や歯ぐきといった末梢(まっしょう)へ酸素や栄養分が十分送られなくなり、その部分の細胞の活動が低下したり、また必要な白血球等が送り込まれないため、感染に対し無防備になります。
4)痛みを感じる感覚神経も障害されるため、皮膚の傷等に気づくのが遅れ、これも感染を悪化させる原因となります。
5)一度細菌等に感染すると、免疫システムに関わるサイトカインというタンパク質が多く作られます。サイトカインは、体内に細菌による攻撃があったという情報を他の免疫細胞に伝えたり、細胞の活性を高める役割をする一方で、インスリンの効きを悪くする作用があり、これが糖尿病のさらなる悪化につながるという悪循環を生みます。

 以上により、「糖尿病が歯周病を悪化させる」ということはご理解いただけたと思います。
 歯周病(歯周炎)も歯周病の原因菌(可能性も含め10種類近くあります)による炎症で、進行すれば歯を失う結果となります。
 最近ではこの5)の部分、「免疫システムが働くことにより、糖尿病がさらに悪化する」という事実が特に注目されるようになってきました。
 つまり先ほどの逆に、「歯周病が糖尿病を悪化させる」ということも解明されてきました。
 この点をもう少し詳しく説明します。

 歯周病があると、その原因である歯周病菌と戦うため、免疫細胞の一種である好中球(白血球の一種)やマクロファージが現れます。
 好中球やマクロファージが歯周病菌に接触すると、自分の仲間を呼び寄せるたり、仲間の戦力を増強させるため、細胞間情報伝達物質であるサイトカインというタンパク質を作ります。サイトカインにはいろんな種類がありますが、特にTNF-α(腫瘍壊死因子、別名炎症性サイトカイン)というサイトカインがここでは問題となります。
 このサイトカインは、細菌が侵入したという情報を仲間の免疫細胞に知らせたり、免疫細胞の活性を高めたりする一方で、血糖値を下げる働きをもつインスリンの効きを悪くするという困った作用をもっています。これにより、糖尿病の症状がさらに悪化する、そして歯周病がさらに、という悪循環が生まれます。
 ちなみに、TNF-αは脂肪細胞からも盛んに分泌されるため、肥満の方はこの意味からも糖尿病になりやすくなる可能性が高くなります。またこの物質は、動脈硬化や関節リューマチをも悪化させますから、いわば合併症を作る因子ともいえます。
 
 糖尿病と歯周病を併発している場合には、血糖値を正常範囲内にコントロールすることはもちろんですが、併せて歯周病を治療することがいかに重要であることがおわかりいただけましたか。

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