風邪気味、疲れ気味で体調がすぐれないとき、歯ぐきが腫れたり、ときには膿んだという経験をおもちの方、いらっしゃいませんか。
体調が悪いのだから、歯ぐきでなくてもどこかに傷や炎症があれば、それを治そうとする自分自身の力=自然治癒力が低下し、症状が悪化するであろうということは想像に難くないと思います。
ところが、体調が比較的よくても、たとえば根をつめて仕事をしたりした場合にも、同様のことが起こりやすくなります。別段疲れてなくても、です。
これらのことは、自律神経と深い関係があるのです。
実は私は、歯科衛生士を養成する専門学校で生理学の非常勤講師をしています。
知ったかぶりをしますので、少しの間、ミニ講義におつきあいください。
脳や脊髄といった中枢以外の神経を末梢神経といいます。
末梢神経には、体性神経と自律神経があります。
前者には、痛みや光、あるいは音等を感じて中枢に伝える感覚神経と、それによって筋肉を動かしある行為を行わせる運動神経があります。
熱い物に誤って手を触れたとき、とっさに手を引っ込めますね。
感覚神経が「熱い!」と感じ、その情報を中枢に伝え、中枢はそれを危険と感じ、運動神経を通じて手の筋肉を収縮させ、結果的に手が引っ込むのです。
一方で後者の自律神経は、自分自身の意識とは無関係に、体のある部分の状態を感知し、適切にそれをコントロールする、いわば自動制御システムです。
食事の際、食べ物が胃の中に入ってくると消化のため胃が蠕動(ぜんどう)運動を始め、粘膜から胃液が分泌され、そしてある程度消化が進むと食べ物は次の小腸に送られます。こういった一連の消化プロセスが適切の行われるのは、自律神経のよるところが大きいのです。体温調節等も自律神経がコントロールしていますが、これらは自分自身の意識とは無関係に行われています。
自律神経には、交感神経と副交感神経がありますが、交感神経は活動をしたり非常事態に備える神経、副交感神経は体を休めたりエネルギーを蓄えようとする神経で、大ざっぱにいうと、両者は反対の働きをして、体の臓器や器官をコントロールしています。
ですから、長時間根をつめることは、体調が悪いという「非常事態」と同様に、交感神経が活発に作用している状態なのです。
免疫系では、交感神経が活発になると白血球の一種である好中球が増え、一方副交感神経が活発になるとリンパ球等の特異性免疫が機能します。
前者は非特異性免疫といって、細菌等が侵入した際、細菌の種類に関係なく真っ先に現れて細菌と戦いますが、機能する時間は短時間です。
後者は特異性免疫といって、機能し始めるのに時間がかかりますが、細菌の種類を見極め、また侵入した場所を特定して効率よく長時間機能します。
好中球の困ったところは、好中球が細菌攻撃のために出す酵素が、炎症のある場所では自分自身の組織にも攻撃を加えやすいということです。
また一般にいう膿(うみ)とは、好中球が細菌等と戦ったあとの死骸なのです。
根をつめるというのも、一種のストレスで、ストレスにより交感神経が活発になると、副腎髄質からアドレナリンというホルモンが分泌され、これにより好中球が活発化します。
この結果が膿であり、また増えた好中球同士や好中球と血管壁とが結合しやすくなり、これも血流を滞らせて腫れやすくもなるのです。
根をつめるのも、できればほどほどに、ということでしょうか。
実際にはこれが難しいんですけどね。