最近、「顎の関節が痛い」といって来院される方が多くなりました。
ほとんどの場合、この顎関節症の症状は、かみ合わせの不調和やかみ癖のような生活習慣から起こる場合が多いのですが、その他にも意外な原因があります。
症状のある方に、「いつも歯をかみしめていませんか?」とお聞きすると、「いいえ」と答える方と、「そういえば」とか「かみしめています」と自覚されて答える方に分かれます。
ところが「いいえ」と答える方の中にかみしめていることを自覚していない方が意外にも多いのです。といったら叱られるかもしれません。
実は、これはこちらの質問のし方が悪いのです。
「普段何気なく過ごしてきるときに、上下の歯が接触していませんか?」とお聞きするほうが正確でしょうか。
この質問に変えると、「そういえば」とおっしゃる方がだいぶ多くなります。
なにか、誘導尋問をしているみたいですね(笑)。
この癖、専門用語で歯列接触癖(TCH: Tooth Contacting Habit)といいます。
歯を食いしばったり、歯ぎしりをしたり、常時歯をカチカチ音をさせる癖も広い意味でこのTCHに含まれます。
歯を接触させただけで、その刺激が咬筋や側頭筋といった咀嚼筋(かむための筋肉)の緊張を引き起こし、その結果、顎関節に負担、圧迫がかかります。
(左:咬筋 右:側頭筋 医歯薬出版 デンタルハイジーン別冊「歯と口腔のビジュアルガイド」より引用)
この状態が過度に続くと、顎関節への血液の供給が妨げられたり、関節の間にある関節円板(ベアリングの役目をする軟骨状のもの)や関節そのものが変形して、顎関節症の引き金になります。
ちなみに正常な場合、一日にどのくらい上下の歯が接触していると思いますか?
ある研究によると、17.5分だそうです。
もちろん食事や会話をしているときの接触を全て含んで、です。
意外なほど短いですね。
ですから、神経を集中させて仕事をしていれば、すぐにこの時間はオーバーしてしまいます。
TCHを矯正する方法として、普段無意識に最も目にするものにマークするという方法があります。
例えば腕時計の文字盤付近に小さなシールを貼っておいて、それを目にしたら接触している歯を離し肩の力を抜く、というものです。
かく言う私も実は仕事中、気づくと前歯を接触させています。
ですから、気づいたら前歯を離す、仕事以外のときはできるだけ肩の力を抜いて、姿勢をよくしようと努力しています(背中が丸くなっていると、下顎が前方に移動し、前歯同士が当たりやすくなります)。
思い当たる方は、是非参考にしてみて下さい。
また別の例ですが、コーラスの発表会直前の猛練習なども顎関節症の原因になる場合があります。合唱の場合、ベルカント唱法といって縦に大きく口を開けますが、これが顎関節に非日常的な負担をかけ炎症を引き起こすことがあります。
医療においては、疾患の自覚、つまり気づきがまず重要で、これがないと治癒に向かう力が生まれてきません。
気づき、そして原因を取り除くにはどうしたらいいかと考えることが生活習慣病の根本的な治療になります。
また一方で、検査などの数字を見ただけで「自覚しすぎ」て落ち込み、精神的に病的な状態になる方もいらっしゃいますが、何事も「過ぎたるは及ばざるがごとし」ですね。
生活習慣病は、その兆候が見つかったからといってすぐに悪化するわけではありませんから、冷静に長期的な展望にたって、あせらず長続きする方法を身につけることが大切です。
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