誤嚥性(ごえんせい)肺炎

08年10月





 嚥下(えんげ)、つまり食物を飲み込むことは、食べ物から栄養を摂取するために毎日行なわれている行為で、健康に生きていく上で重要なことですが、通常はほとんど無意識に行なわれています。
 呼吸ももちろん生きていく上で欠かせない行為です。
 呼吸では、鼻から吸い込んだ空気は、鼻腔から咽頭を通り、喉頭を経て気管に送られます。
 一方嚥下では、食べ物は口腔から咽頭を経て気管の後ろの食道に送られます。
 つまり、空気の通り道と食べ物の通り道は咽頭で交差しています。
 ではどうやって空気と食べ物の交通整理をするのでしょうか。
 呼吸時には気管の入り口にある喉頭蓋というふたが上に開いていますが、嚥下の際には気管をふたします。この喉頭蓋の動きは、脳の奥にある嚥下反射中枢が無意識のうちにコントロールしています。その他の筋の動きも含め、この動きを0.5~1秒という瞬時に行なうのですから、とても精密なメカニズムといえます。
 さて、肺炎は日本人の死因の第4位です。
 高齢者の肺炎が悪化したり死因となるのは、様々な合併症を抱えていることももちろんですが、繰り返し誤嚥(食べ物が気管のほうに流れ込むこと)をしやすいことがあげられます。
 高齢者の多くは、嚥下反射(食べ物を飲み込む能力)や咳(がい)反射(誤って気管に入ったものを咳で排除する能力)が低下しています。
 そのため、食事のときにむせ込んだり、食べ物がのどにつかえたり、また夜間睡眠中に唾液が気管に流れ込んだりします。
 これによって口の中の細菌が肺の中に入って起こす肺炎を誤嚥性肺炎といいます。
 誤嚥性肺炎の予防には、口腔ケア、つまり口の中を清潔に保つことが重要です。
 要介護高齢者の口腔ケアを継続的に行なうことにより、咽頭部(喉の奥)の細菌の数が劇的に減少したという報告があります(ある調査では、ケアを始めて5ヶ月後に当初の1/10になったそうです)。
 誤嚥性肺炎の原因となる疾患の代表に脳血管障害があります。
 65歳以上の方の約半数には程度の差こそあれ、何らかの脳血管障害があり、その多くは脳の深部での障害であるとされています。
 この部分にある嚥下反射中枢の機能が低下すれば、誤嚥性肺炎を引き起こす危険性があることは容易に理解できます。
 これを予防するためには、日頃から口腔ケア、つまりブラッシングや細菌のすみかとなるむし歯や歯周病の管理、歯石の除去等の処置を行なっておくことが重要です。
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