顎関節症


2006. 9月
 日本顎関節学会による顎関節症の定義を要約すると、あごの関節つまり顎関節周辺に何らかの異常があり、「あごが痛い」「あごが鳴る」「口が開けづらい」などが主な症状である慢性的な疾患をまとめて顎関節症と呼ぶ・・・となっています。
 これら顎関節周辺だけでなく全身の様々な部位に症状が現れることもあります。
 たとえば、頭痛、首や肩・背中の痛み、腰痛、肩こりなどの全身におよぶ痛み、耳の痛み、耳鳴り、難聴といった耳の症状、その他目の症状、さらには嚥下困難、呼吸困難、四肢のしびれといった多岐の症状を引き起こす場合もあります。
 子供から高齢者まで幅広くみられる病気ですが、年齢では10代半ばから増え始め20?30代がピーク、そして女性は男性の2?3倍の来院数だそうです。
 近年若い方の来院が増加傾向にあることから、最近の若年層に特徴的な食習慣、生活習慣などにも関連があると考えられます。
 かつては顎関節症の原因は噛み合わせの異常にあるといわれていましたが、現在では原因となる因子はいくつかあり、それらが積み重なってある限界を超えたときに発症すると考えられています。
「くいしばり」「歯ぎしり」「歯をカチカチならす」などのことをブラキシズムといいますが、筋肉を緊張させて顎関節に過度の負担をかけダメージを与えるため、最も大きな原因といわれてます。
 その他ストレス、左右の一方ばかりでかむ偏咀嚼、うつ伏せ寝、頬杖をつく癖、あごの下に電話をはさむ、偏った睡眠時の姿勢、猫背の姿勢なども原因といわれています。また、合唱等で口を縦に大きく開ける動作を続けることが原因となることもあるようです。
 さらに最近は、子供が顎関節症を訴えるケースも増えています。原因は大人と同様ですが、学校生活、受験勉強、友人関係、親子関係など、最近では子供も予想以上にストレスを受けているということにも関係があるのではないかといわれています。
 治療法は、原因の除去と症状の緩和に分けられますが、多くは双方を組み合わせて行なわれます。
 多くの場合、ちょっとした生活習慣の歪みが原因ですので、その原因が改善されれば比較的治りやすい疾患で、重症の場合などを除けば、手術などにおよぶケースはまれです。

治療法を簡単に説明します。
1)認知行動療法
 ブラキシズムや癖など顎関節症の原因となる悪習慣やその背景をさぐり、本人に自覚させ、それらを取り除くようにさせる

2)咬合治療
 かみあわせの異常が原因となっていてそれを取り除くことにより症状の改善が見込める場合には、初期段階ではごく簡単な噛みあわせの治療を行い、治療の最後に最終的な噛みあわせの治療を行う

3)物理療法
 痛みの軽減のために患部を温めたり冷やしたりする

4)運動療法
 開口や顎を動かす訓練をして口がよく開くようにする

5)スプリント療法
 スプリントという歯列を覆う装具を装着することで顎関節や筋肉への負担を軽くして歯ぎしりや食いしばりの害を緩和する

6)薬物療法
 痛みが強い場合に薬で炎症を鎮めたり、筋肉が痛みで固まっている場合に筋弛緩剤を用いたりする。
 また夜間の歯ぎしりや食いしばりを抑えるために入眠剤、痛みの軽減のために抗不安薬、抗うつ薬を使用する場合もある

7)整復法
 ずれた関節円板の位置を手で正しい位置に戻す(マニュピレーション)。

8)外科療法
 その他の治療で症状が改善されない場合には外科療法が行われる場合もある。関節内に強い炎症がある場合に針をさして関節内部の物質を洗い流す「関節腔内洗浄療法」、関節内で関節円板と骨の癒着がある場合にそれをはがす「関節鏡手術」などがある。


■治療はセルフケアが中心
 顎関節症は生活習慣病的な部分が大きいため、患者自身が行う自宅療法(=セルフケア)が治療の中心となります。
 顎関節症を起している歯ぎしりや偏咀嚼などの悪習癖やそれを誘発する背景などを把握してそれらを取り除くことをしなければ根本的な治療にはならないともいえます。それは症状の改善とともに再発の予防にもなります。

<主なセルフケア>
○歯を接触させない
 くいしばりをしないようにする。上下の歯が接触するのは物を噛むときだけで、通常時は歯を接触させないようにして余計な負担をかけないようにする。
「唇を閉じ、上下の歯を離し、顔の筋肉の力を抜く」

○硬いものは食べない
 痛みや口が開けづらい症状がある場合は、しばらくは硬いものを食べないよう注意する

○口を大きく開けない
 無理に口を大きく開けない。食べ物を小さく切る。大きな口を開いての会話や歌、あくび、歯科治療などにも注意。

○冷湿布、温湿布
 痛みの急性期には冷湿布が有効。あごを動かさずに冷やしすぎると血液循環が悪くなるので注意。
 慢性的な痛みには温湿布をすると筋肉の緊張や痛みが緩和される。

○マッサージ
 あごの筋肉が痛むときはマッサージをすると血行がよくなり痛みが軽減される。弱っている筋肉を痛めないように強く揉みすぎない。

○よい姿勢を保つ
 立つ姿勢や座る姿勢を正しく。猫背やあごを突き出す姿勢になっていないか注意する。同じ姿勢を長時間続けないようにし、ときどきストレッチなどをする。

○うつ伏せ寝をしない
 うつ伏せは顎や首の筋肉に負担がかかるので、できるだけ仰向けで寝るようにする。枕も高いものは避ける。

○あごの運動をする
 関節や筋肉の痛みが緩和されたら、少しずつ顎の運動を行う。口の開閉や顎を横に動かしたり、首や肩のストレッチをする。医師に相談して顎の筋肉エクササイズなどを症状をみながら行う。

○リラクゼーション
 緊張をほぐし、顎に負担をかけないようにする。仕事などで長時間緊張が続くような場合は、ときどき緊張を解いて筋肉を休ませるようにする。意識的に筋肉の力を抜いていくリラクゼーションなどを行うのもよい。
 また過度なストレスがかからないようにする。

○全身運動
 ウォーキングや水泳などの全身運動をする。基礎体力の維持や全身の血行をよくする他に、気分転換やストレス解消の効果もある。

○あごに負担をかけない生活
 歯を食いしばるスポーツ、管楽器の演奏、口を大きく開ける発声練習などにも注意。頬杖をつかない、食べ物は両奥歯で噛む、など顎に負担をかけないようにする。

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