歯から全身疾患へ


 とかく歯と全身とは別個のものとしてとらえられてきましたが、近年はその密接な関連が注目されています。
 口の中には多種多様な細菌が常在していますが、健康な場合、それらの数と種類は絶妙なバランスを保っていて問題は起こりません。
 ところが、歯周病が進んでいる場合には、歯と歯ぐきの間の溝、つまり歯周ポケットには歯周病の原因菌が通常の範囲を超えて増殖し、全体のバランスを崩しています。歯周病から全身疾患が引き起こされるプロセスは大きく3つに分けられます。
 食物を飲み込んだ場合、通常消化管の中では細菌は生きていけませんから特に問題になりません。しかし嚥下(飲み込むこと)がうまくいかないと、細菌は気管支から肺に入り、肺炎等の呼吸器感染症を引き起こすことがあります。とりわけ歯周病があり、また誤嚥しやすくさらに抵抗力が不十分なお年寄りでは重篤な症状をもたらします。
 次に、歯周ポケット内では炎症により上皮が破壊され、そこから歯周病の原因菌が血流に入り込み、直接他の臓器に運ばれそこで増殖し、新たな感染を起こす場合があります。例としては、細菌性心内膜炎や動脈硬化症等が挙げられます。
 もうひとつ、口に中の細菌に対する体の免疫反応が関与して疾患を引き起こす可能性が考えられています。これには、最近注目されている「サイトカイン」という物質がかかわっています。病原体等の細菌が体内に侵入した場合、免疫を担当する細胞はサイトカインを産生して免疫情報を伝達しますが、一方で自分の体を守るために作られたサイトカインが、他方で炎症を引き起こし自分自身の組織に傷害を与えてしまうのです。このサイトカインが血流によって運ばれ、動脈硬化症、糖尿病、さらに低体重児出産等を引き起こすといわれています。
 さらに糖尿病や動脈硬化症があると、歯周病等の炎症を起こしやすくなるため、さらなる悪循環が生まれます。
 口の中を健康に保つことは、全身の健康維持のために大切なことなのです。


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