医療と美容の境界は?


 季節はずれの連想ゲームを一つ
「春」といえば「桜」と答える人が最も多いでしょうか。 その他に、「入学」とか「転勤」「緑」「小川」といった連想も出てきそうです。中にはかわいそうに、「花粉症」を真っ先に連想する人も最近は少なくないようです。私はといえば、「春」から連想するのは職業がら、「桜」などと並んで「検診」です。
 ところで最近学校での歯科検診で、「う歯」や「歯周疾患」と並んで、「歯列」要するに歯並びの項目が付記されるようになりました。歯並びのチェックをしてもらうことは結構なのですが、問題はその治療にほとんどの場合、健康保険が適応されないということなのです。青葉歯科においても月の第2、第4土曜日などはその日の診療のうち、95%以上は矯正治療です。この治療に保険が適用されたら親御さんの負担はどんなにか軽減されることでしょう。
 学校での検診は元をたどれば文部省の管轄ですが、一方保険診療は厚生省の管轄になっています。検診で治療の勧告はするものの、むし歯や歯周疾患の治療と異なり、実際の治療は保険外という矛盾が生じています。児童や生徒自身のみならず、親御さんまで歯並びの治療はしなくてはならないものか否かと迷ってしまいます。文部省の地方機関である市町村の教育委員会は、勧告ではないといっていますが、であれば「歯列不正」の通知を受け取った保護者は、子供の歯並びが悪いという客観的な事実を突きつけられただけで、あとの対応は「よきに計らえ」ということでしょうか。これでは教育的な観点が欠落しているといわざるをえません。ここでも縦割行政の弊害が現われています。
 医療費抑制が趨勢の現在ですが、医療人としてできれば未成年の歯列矯正には保険を適用すべきだと思います。でないなら、せめて歯並びに問題があるものの、事情で矯正治療が受けられない児童生徒には、併発の恐れのあるむし歯や歯周疾患、かみ合わせの異常に対する定期的なチェック等の管理体制を整備すべきだと思います。
 歯列矯正を保険適用しない理由として厚生省は、歯列矯正は医療ではなく、美容的な要素が強いと述べています。しかし現在では、歯並びの異常は先に述べたような疾患の誘因となることが明らかになっています。いろいろな疾患の誘因となる身体の異常は、やはり疾患として捉え、医療の対象にすべきではないでしょうか。
 医療の最終目標は、健康、および健康観の確立だと思います。だとすれば、自分の身体上の機能的審美的欠点を気にして日常生活に支障をきたすのであれば、その状態は精神面で健康的な状態とはいえません。それを解決するには、発想を転換するか、もしくは欠点自体を修正するという方法が考えられます。具体的には、前者が宗教を含めた哲学であり、後者が美容や医療ということになります。
 こうなると、美容と医療の境界というものは絶対的なものではなく、もし自分が「修正」により、より健康的に生きられると考えるならば、積極的に検討する価値はありそうです。ただ、最終的にはそのことにより自分の気持ちが満足し、精神的に健康的な生き方ができるようになることが前提です。
 厚生省や文部省にもこの辺のことを理解していただきたいものです。
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