「そうだったのか!語源」⑨  常用の外来語

今回は、頻繁に使う常用の外来語について考察してみたい。

さて、マニュアルと聞いて真っ先に連想するのは、取扱説明書、指導書、手引(書)という意味合いで使う場合と、自動車のオートマ(オートマチック)に対するマニュアルという使い方ではないだろうか。

マニュアル=manualのmanu-はラテン語のmanusが起源で、手や指を表すことばである。

前者の意味はどこから来るのか。

Concise Oxford English Dictionary(以下、COED)には、manualの訳のひとつに、

[a book giving instructions or informations]

とある。

これから類推するに、指導書あるいは解説書というのが元の意味に近いと考えられる。

仮にmanualに「手で持てるくらいの」という意味があるのなら、bookの前にhandy あるいはsmallといった形容詞があってもよいはずである。

ちなみに、手帳は英語では notebook あるいは pocket book という。

つまりこの場合のmanualには、指導、指南といった意味合いが強く、日本語の指と同義で「(指で)指し示すもの」を表していると考えるのが妥当ではなかろうか。

次に、後者の自動車のマニュアルは文字通り、manual transmissionの略で、手動の変速機のことである。

ちなみにtransmissionには、厳密には日本語の「変速機」という意味はない。

trans-は、「越えて」「横切って」「別の場所へ」という意味があり、missionは「伝える」という意味がある。

例として、transport=輸送(別の場所へ運ぶ))、TPP=Trans-Pacific PartnershipやTransam=trans American(アメリカ大陸縦断)等がある。

ちなみにmissionは「伝える」という意味で、transmissionは直訳すれば、「エンジンの動力をそこから離れたタイヤに伝える装置」ということになる。

ミッションスクールとは、キリスト教団体が異教世界でのキリスト教布教(伝える)のために設立した教育施設をさす。

マニュスクリプト=manuscriptは原稿という意味もあるが、文字通り訳せば手書きということになる。

マニキュア=manicureは手(や爪)の手入れ、 manufactureはもともと工場制手工業を指した。

我々に関係するものとしては、医療廃棄部処理の際に必要となるマニフェスト=manifestoがある。母音で終わっていることからも推測できるように、もともとはイタリア語で、「手で打つ」という意味だった。それが「手で感じられるほど明らかな」という意味に派生し、「はっきり示す」となり、声明(文)、宣言(文)を意味するようになった。

余談だが、足に関係するものにはped-が使われることが多い。

pedal=ペダル、pedicure=ペディキュア、pedestrian=歩行者用の(例、ペデストリアンデッキ)、pedller=行商人といった具合に。

さて以前、⑤でAED=Automated External Defibrillator について少し触れたことがある。

今回は、automaticとこのautomatedの違いについて考えてみたい。

日本人にはわかりにくい違いではないだろうか。

私も調べるまでは、AEDのAはなぜautomaticではないのかと疑問に思っていた。それゆえ今回調べるきっかけとなった。まさに無知は知なり。

automaticについて、COEDには、次のような説明が記載されている。

  1. (of a device or process)working by itself with little or no direct human control.

2.done or occurring without conscious thought.

1.→(装置やプロセスにおいて)人間によるコントロールが全くないかごく少ない

2.→無意識化で行なわれる動作や事柄

これらから、日本語で一般的に言うところの「自動」、あるいは「無意識」「自然な」といった意味が近いと思われる。

一方のautomatedは、「(工場、工程が)オートメーション化された」という意味合いが強く、機械により制御、コントロールされているもの、あるいは状態を指している。つまり、あくまでもあるプロセスにおいての機械による自動化である。

次のような表現が実際あるかどうかは定かではないが、automatic smileは自然な(無意識な)微笑みだが、automated smileは機械によって作られた微笑みで、ニュアンスは随分違ってくる。

したがって、AEDはあくまでも機械がそのプロセスを制御している装置であり、すべて自動でやってくれるものではないと捉えるのが妥当であろう。実際、周囲の環境や機械の設置,整備(水分を排除するとか)は人が行わなければならない。

昨今、自動車の自動運転化が急速に進みつつあるが、少なくとも現時点ではそれはautomatedの領域であり、真のautomaticになるにはまだまだ技術進歩のための時間が必要であろう。

そもそも、自動車の「自動」とは、自ら動く車という意味である。かつて動物や人力で動いた移動手段が、クルマ自らの動力で動いたためにこの自動車という名前が生まれたわけである。automaticとは程遠いものである。

(群馬県保険医協会歯科版掲載のための原稿)