今回は病名について触れてみたい。
- 卒中
「卒」と[中]が結びついた言葉。
まず「卒」だが、「衣」と「十」から出来た漢字で、はっぴのような上着を着
て、十人ごとに一隊になって引率される雑兵や小者を表すとされている。小さいものという意味もある。一方、「にわかに」という意味もあるが、これは「猝」に当てたもので、にわか、すみやか、突然という意味をもっている。
また、小さくまとめて引き締めるという意味から、最後に締めくくるという意味となり、「終わり」の意味を派生したと言われている。「卒業」はこの例である。
やや話が長くなったが、卒中の場合、実は「にわかに」「突然」の意味で用いられている。卒倒はその一例である。
では「中」とはいかに。
これは元々象形文字で、旗ざおを枠の真ん中につき通した状態を表現したもので、真ん中の意味とともに真ん中を突き通す意味も含む。「中る」と書いて、「あたる」と読む。
つまり、的の中心を突き通すという意味、つまり「あたる」という意味がある。
「命中」「的中」などはこの用法である。
したがって、卒中とは、「突然起こる(あたる)」という意味の病名である。
もともとは卒中風(そっちゅうぶう、そっちゅうふう)の略とされ、「中風」「中気」とは、風など外界からの刺激にまともにあてられた病気という意味である。
最近よく耳にする熱中症も、熱に中る(あたる)という意味かと考えられる。
蛇足だが、中毒も、小毒と大毒の中間だから中毒というわけではなく、毒に中る(あたる)という意味である。
- 結核
結核菌が体内に入ったとしても、必ずしも感染するわけではない。
多くの場合、マクロファージ等の免疫により排除されるが、ときに菌が体内にしぶとく残ることがある。その場合、免疫機能により、結核菌を取り囲み、「核」を作る。結核の名は、ここから来ている。
ところで、結核は英語でtuberculosis、略語でTB(「テーベー」は独語読み)という。
tubercul-は、ラテン語のtuberculm=芋から派生していると考えられる。
解剖用語では結節である。結節も、芋のように「ころん」としている塊りのイメージがあったのだろう。つまり、ぎゅっと凝縮されたもののイメージがtuberculmと考えられる。ここまでくると、ターヘル・アナトミアの世界に近い。
ちなみに、ツベルクリン(tuberculin)は、結核診断用の注射液。
- インフルエンザ(influenza)
ご存知の通り、インフルエンザウィルスによって引き起こされる急性感染症で、日本語では流行性感冒と訳される。感冒とはその名の通り、感染して冒されるという意味で、なかなかの名訳だと思う。
ところで、influenzaという病名は、16世紀のイタリアでつけられた。英語のinfluence=影響、感作、感応と同源である。感冒と感作に同じ「感」の字があるので、やはり感染の意味からできた言葉かと思っていたら、どうもそうではないらしい。
インフルエンザは、毎年冬になると決まって流行し、春を迎える頃になると終息する。
そこで当時の占星術師らは、インフルエンザは、天体の動きや気象上の寒気の影響によって発生、終息すると考え、影響を意味するinfluenzaを当てたとする説が最も説得力がある。
- 梗塞
国語的には、塞がって通じなくなることをいう。
医学的には、動脈が塞がることによって、その流域下の組織に壊死が起こることをいう。
「梗」には、芯になる硬い棒や芯のあるとげの意味があります。この「硬い」や「棒」というのが何を指すのか、勉強不足で分かりかねる。あくまで想像だが、「血栓」「塞栓」というと血液の塊という具体的なイメージが読み取れるが、「梗塞」には「栓」という具体的ものがない。したがって「梗」は棒状のもの、つまり血管を指すのかもしれない。あるいはやはり、芯のような「塞いだ物」を表している可能性も否定できない。
- 麻痺
神経機構、あるいは筋機構の障害によって、部分的な運動機能が喪失、あるいは低下する状態を指す。
「麻」は、大麻、亜麻、黄麻等の総称。大麻は麻薬成分を含み、ここから「しびれる」という意味を持つようになり、「麻薬」「麻酔」「麻痺」といった言葉が生まれた。
「痺」は訓読みで「痺れる=しびれる」と読む。
したがって、「麻痺」は同義語の熟語である。
- 不全
字のごとく、全うしないこと、きちんと機能しないこと。不全の前には器官等の部位あるいは機能が表示され、それが悪化した結果が「○○不全」となる。
・ 突発性 (とっぱつせい)とは、突然発症すること。
ex,突発性難聴 突発性発疹
特発性(とくはつせい)は、特定の原因が見つからないのに発症すること。 「原因不明な」を意味するidiopathicの日本語訳である。
ex,特発性心筋症 特発性癲癇