そうだったのか語源⑬   −国名都市名その1−

今回は、国名や都市名についてエピソードを交えて触れてみたい。

まず、2016年にオリンピックが開催されたブラジルのリオデジャネイロ。

ブラジルの言語であるポルトガル語では、Rio de Janeiroと書くが、Rioは英語のriver、deはof、JaneiroはJanuary、つまり「一月の川」という意味である。この地はグアナバラ湾の入り口に位置しているが、初めてここに到着したポルトガル人はこの狭まっている湾口を川と誤認したため、発見した月にちなんでこの名前をつけたそうである。

同じく発見者により命名された国名で、これまた同じく南アメリカにあるアルゼンチンという国。

この国は、スペインに征服されたが、独立当時、リオ・デ・ラ・プラタ連合州(Provincias Unidas del Río de la Plata)と呼ばれていた。リオ・デ・ラ・プラタはスペイン語で「銀の川」を意味する。16世紀にこの地を踏んだスペインの征服者は、銀の飾りを身につけた原住民を見て、川の上流に銀の鉱脈があると信じてこの名をつけたそうである(ちなみにアルゼンチンは現在銀の産出量世界10位)。その後、スペインによる圧政を忘れるために、銀のラテン語表記の「Argentum」に、地名を示す縮小辞(-tina)をつけてArgentinaとし、日本語ではアルゼンチンと呼ぶようになった(銀の元素記号Agも同じ由来)。

ちなみにLa Plataは、首都ブエノスアイレスを流れる川の名として現在も残っている。

ラテンという言葉が出たところで、国名ではないがラテンアメリカという地域名について触れておこう。

これはアングロアメリカ(アングロサクソン系が主導権を握る国々=米国、カナダ)に対して付けられた名前で、中米から南米の国々を指す。

ラテンという言葉には「イベリア系の」という意味があり、これらの国々をかつて支配していたのが、ほぼスペインとポルトガルだったことに由来している。

さて、ラテンアメリカのコスタリカという国名。

Costa Ricaはスペイン語だが、英語ではrich coastとなり「豊かな海岸」という意味である。

ちなみに、同じラテンアメリカにエクアドル(=Ecuador)という国があるが、英語のequator、スペイン語で赤道という意味である。地図で調べると、たしかに赤道の上に位置している。equatorの(equa-)はequal=等しいと同源で、赤道は北極と南極から等距離にある線という意味である。

「海岸」に関連して、アフリカに行くとCôte d’Ivoire=コートジボアールという国がある。ある年代以上の方には、元フランス領の「象牙海岸」という名前の方が馴染み深いかもしれない。Ivoire (仏)は英語のivoryで、つまりかつての意訳がそのまま原語の仏語に戻されただけである。1986年、この国の政府が、自国名に対し、意訳による外名(第三者による特定の土地・民族の呼称のこと)の使用をやめるよう各国に要請したことによる。

Côteが出たついでに、フランス南東部の Côte d’Azur=コートダジュールは保養地として有名だが、Azur(アズュール)はフランス語で青を意味し、「紺碧海岸」と和訳される。「アズレンうがい液」という青い薬剤があるが、これも同じ語源である。

さて、今度は中東に目を向けると、ヨルダンという国がある。紛争の絶えないイスラエル、パレスチナの隣国であるが、国名はそこを流れるヨルダン川に由来している。ヨルダン川は、ヘブライ語起源の河川名で、聖書にも出てくるそうである。スペルはJordanだから、英語読みでは「ジョーダン」だ。この読み方だと、国名よりは人名を連想させる。

ヨルダンからやや北上すると、ジョージアという国があるが、この国名は最近耳にするようになった。力士の栃ノ心の出身国でもある。この国、アメリカの州名かと耳を疑いそうだが、実はかつて、ロシア語でグルジアと呼ばれていた。

英語でのスペルはGeorgiaだから、どちらの読み方もできそうである。

国連加盟国の大多数の国は、もともとこの国を英語読みのジョージアと呼んでいた。グルジアと呼んでいたのは、日本と中国、韓国と旧ソ連の国々くらいだった。2008年にロシアと武力衝突した旧グルジア政府は、翌年からロシア語由来のグルジアという呼称を変更するよう各国に要請していたが、結果として2015年以降、日本もジョージアと呼ぶようになった。国家間の関係が、国名の呼称にまで影響を及ぼすことは興味深い。

ちょっと離れて、インドネシアという国名は、「インド」に諸島を意味する接尾辞「ネシア(-nesia)」をつけたもの。

大航海時代にヨーロッパ人が主観的につけた名前で、インドの島々といった適当な意味だとか。同様に、タイ、ラオス、カンボジア等をインドシナ=Indochinaと呼ぶが、これもヨーロッパ人から見て「インド(India)と中国(China)の間」といった大雑把な命名である。

オセアニア=Oceaniaは大洋州と和訳されるが、スペルを見るとocean(オーシャン)からの命名とわかる。

一方、ユーラシア大陸のユーラシア=Eurasiaは、ヨーロッパ(Europe)とアジア(Asia)との造語である。

北に目を向けると、デンマーク領のグリーンランドという島がある。世界最大の島で、面積は日本の約6倍で、その85%は氷で覆われている。

名付け親は、ノルウェー生まれのアイスランドバイキング、エイリークという人物。

エイリークはグリーンランドに上陸するより前に、アイスランドを発見していた。 彼が命名したアイスランド(英語ではIceland)は、そのいかにも寒そうな名称故に入植希望者が現れなかった。その轍を踏まないよう、彼はこの地に入植希望者が多数現れるように、「緑の島」と名付けた。それがグリーンランドの由来であるが、それで入植者が現れるというのも何とも浅薄な気がしてならない。

ちなみにこの島の南部には緑の大地が広がっているそうである、念のため。

(群馬県保険医協会歯科版掲載のための原稿)