キシリトールについての誤解

2019年8月



 キシリトールは北欧諸国で常用され、その後、むし歯予防のための甘味料として、日本中に知れ渡りました。
 そして、「甘味料としてキシリトールを摂取していればむし歯にならない」といった極端な考えまで出てきました。
 まず、キシリトールという甘味料について、確認しておきましょう。

 甘みはショ糖と同様、カロリーはその約6割、加熱による甘みの変化はほとんどないため、加工にも適しています。
 キシリトールは、ソルビト−ル、マルチトール、エリスリトールなどと同様に糖アルコールの一つで、トウモロコシの芯や白樺を原料としてつくられます。これらの原料からキシランという多糖類を抽出し、それを加水分解(化合物が水と反応して起こす分解反応)して、キシロースという単糖とし、これにさらに水素を添加してつくられます。つまり、キシリトールは人工甘味料なのです。
 ちなみに糖アルコールは、体内に取り込んだ後、大腸へ行くまで消化、吸収されにくく、移動しながらたくさんの水分を引きつけていくという特徴があります。大量に摂取すると、大腸で分解される際、もってきた水分を一気に解放するため、腸の内容物が膨張するなどして腸を刺激し、下痢を引き起こしやすくなります。
 さて、これまでもソルビト−ル、マルチトール、エリスリトールなどの糖アルコールは、キシリトール同様にむし歯を起こしにくい甘味料として多く使われています。これらの糖アルコールに比べて、キシリトールだけが特にむし歯を起こしにくいというわけではありません。
 事実、アメリカの食品医薬品局(FDA)およびEUの委員会は、キシリトール、ソルビト−ル(ソルビット)、マンニトール(マンニット)、マルチトール(還元麦芽糖)、ラクチトール、還元麦芽糖水飴、還元グルコ−スシロップなどの間にう蝕誘発性(むし歯の起しやすさ)の違いを認めていないのです。
 まず、むし歯の成り立ちをおさらいしておきましょう。

 ショ糖(砂糖)の入った食物を摂取すると、歯の表面に食物残渣(食べカス)が付着します。口腔に常在する細菌の中で、ショ糖を分解し代謝産物として酸を作り、同時に粘着性の菌体外多糖という物質を作る細菌が、高濃度の酸を歯の表面に溜め込みます。これにより、歯の表面が溶かされ(脱灰)ますが、短時間であれば、唾液の緩衝作用(酸を中和させる作用)と再石灰化作用で、歯は元の状態に戻ります。ところが、この状態が長時間続くと唾液の作用が追いつかず、溶けたままになってしまいます。これがむし歯です。
 ですから、ダラダラ甘いものを口にしたり、食物残渣が歯に付着していたり、唾液の分泌が低下したりという状況下で、むし歯ができやすくなります。
 逆にむし歯の予防には、pHが下がりっぱなしの状態を作らないことが重要なのです。

 糖アルコールがショ糖に比べ、細菌に代謝されにくいことは事実です。
 つまり、pHを下げにくいということです。
 事実、1976年にフィンランドで行われた実験をはじめとして、う蝕予防効果があることは実証されています。

 ただ、気をつけなくてはならないことがあります。
 下の図は、トゥースフレンドリー協会のグラフを引用したものです。

 
 0.5%のショ糖を人の歯垢の上に滴下したときと、0.5%のショ糖に9.5%のキシリトールを加えて、滴下したときの歯垢中のpH変化を調べたものです。ショ糖の20倍ものキシリトールを加えても、ショ糖による歯垢のpH低下を抑えることはできません。たとえキシリトールが95%入っていても、ショ糖が5%入っていれば、歯垢のpHを危険ゾーンにまで低下させ、むし歯を起こす可能性があるのです。
 つまり、ショ糖と一緒に摂取した場合、キシリトールに抗う蝕誘発性(むし歯になりにくくする作用)があるとは言えないのです。
 また、キシリトールの再石灰化促進作用については証明されておらず、非う蝕原性(むし歯の原因とはなりにくい)ではあるものの、抗う蝕性と言うことはできないのです。

 キシリトール配合のガムなどを適切に利用することでう蝕の予防に一定の効果が認められるが、う蝕が治るということはないというのが、現状での結論なのです。
 それより、ガムをかむことにより分泌される唾液の分泌が促進され、これにより口腔内の清浄化効果が期待できること、そしてpHが低下しない状態の維持、そしてそれによる脱灰防止と歯の再石灰化促進効果は十分期待できます。
 つまり、唾液分泌の促進がむし歯を予防するのです。
 キシリトールに、他の糖アルコールとは違う、何か特別な作用があると信じ込むのは危険ということです。



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