病(やまい)は気から?

2016年6月



 「病は気から」という諺があります。
 病気は気の持ちようによって、良くも悪くもなるという意味で使いますね。
 これに似たものでは、「心配は身の毒」「百病は気から起こる」「万の病は心から」などという諺もあります。
 本当に気の持ちようで健康になったり病気になったりするのでしょうか。

 その前に、自律神経のお話をしましょう。
 私たちの内臓は、自律神経によってコントロールされています。
 自律神経には、内臓の状態を中枢に伝える感覚神経と、その情報をもとに内臓を機能させる運動神経があります。
 自律神経はまたその働き方によって、交感神経と副交感神経に分けられます。
 交感神経と副交感神経は、大雑把にいうと一つの内臓に対し反対の働き方をします。
 交感神経は、体を活動させるのに適した状態(緊張、興奮状態)にし、副交感神経は体力を回復させる状態(リラックス状態)にします。
 例えば、脳や心臓、肺などは交感神経により、活動が活発になります。
 副交感神経はこれらに対し、抑制的に働きます。
 一方で、胃腸などの消化器官は副交感神経により活動が促進され、消化吸収を促し、栄養を蓄えようとします。交感神経はこれらの働きを抑制します。
交感神経と副交感神経により、内臓はそのときの体の状態に合った動きにコントロールされます(このコントロールが乱れた状態が自律神経失調症と呼ばれます)。
 また、日中は交感神経の活動が比較的活発になり、逆に睡眠時には副交感神経に支配された状態になります。これは理にかなっていますよね。
 さらに、ストレスがかかったときは、そのストレスに対抗したり、ストレスから逃れようとして交感神経が興奮します。何かの作業に熱中しているときも交感神経が興奮しています(ストレスがかかったときは、副腎皮質ホルモン、副腎髄質ホルモンも交感神経と同様の働きをします)。
 つまり、交感神経により体が臨戦体制になり、副交感神経により体が休息できるのです。
 ちなみに皮膚や歯肉といった末梢の血管は、交感神経の作用で収縮し、血液が脳や心臓といった活動の中心となる部分へ効率よく送られるような状態が作られます。肩こりも、肩の血管が慢性的に収縮して血行が悪くなった結果引き起こされます。
 交感神経の興奮は、いざという時に力を発揮しますが、この興奮が長時間続くと、体力を消耗します。「根(こん)の詰め過ぎは体に悪い」というのは本当です。脳や心臓等でエネルギーを使う一方で、消化機能は抑制されているため、エネルギーの供給が抑えられますから、当然ですね。

 さて、いよいよ本題に入ります。
 大きな心配事や悩みが長時間続くと、交感神経が興奮したままの状態になります。一方で消化吸収機能は低下していますから、体は消耗の一途をたどります。ひどくなると、体力は消耗しているのに夜間も交感神経が興奮していて眠れず、結果睡眠不足を招き、さらに事態を悪化させます。
 先ほど、副腎皮質ホルモンと副腎髄質ホルモン(ストレスホルモンといいます)が交感神経と同様の作用をするといいましたが、これらもストレスに対抗する働きをしますが、この分泌が長時間続くと免疫力を低下させてしまうのです。
 通常、免疫細胞の割合は、リンパ球約35%、マクロファージ約5%、顆粒球約60%ですが、ストレスホルモンの分泌が続くと、顆粒球の割合が多くなります。免疫反応で役目を終えた顆粒球は死滅し、そのとき活性酸素が作られます。この活性酸素は細胞の組織を破壊する作用をもち、結果がん細胞の発生に繋がるのです。
 つまり、「病は気から」は根拠ある諺なのです。
 そして、交感神経が末梢の血管を収縮させるということは、肌にも歯肉、つまり歯周病にも影響があることも理解していただけたと思います。
 「歯周病をコントロールするには、口腔ケア半分体調半分」
 これは、常々皆さんにお伝えしていることです。

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