『日本歯科医師会贈収賄事件とかかりつけ歯科医初診』


 今年の春、日本歯科医師会長が贈賄の罪で逮捕されました。
歯科界始まって以来、前代未聞の醜聞であり、歯科医の社会的評価は地に落ちた感があります。

 事の発端は、これまで算定要件の厳しかった「かかりつけ歯科医初診料」(以下「か」初診)の算定要件を緩和するために、日本歯科医師会の会長が厚労省のトップに賄賂を送ったことによります。(日本歯科医師会は本来学術団体ですが、これまでその会長が政治団体である日本歯科医師政治連盟の代表を兼任していたため、このようなことが起こります)ちなみに、内科外科等、医科の診療所の初診料が約270点であるのに対し歯科では180点、これが「かかりつけ歯科医」初診を適用すると医科並みの274点になります。今回の改訂で、「か」初診を採用しない診療所は他の引き下げになった点数の影響でかなりの収入ダウンとなりました。
 そもそも「か」初診とは、その歯科医が患者にとって歯科のかかりつけ医、つまり主治医であるとお互いに認めた場合に、一時的な患者と異なりより多くの情報提供を行い、その報酬として通常の初診料より94点多い「か」初診料が請求できるというものです。また、一度「か」初診を算定すると、その後の再診でもかかりつけ再診料(通常の再診料より7点プラス)が適用され、処置においても「かかりつけ」の加算がなされます。当然ながら、これまでこの「か」初診を算定するには、「か」初診の趣旨を患者に説明し同意を得るというのが前提条件とされていました。それが今年の4月の診療報酬改定から、図表を使って治療等の説明をすれば必ずしも患者さんの同意を得る必要はなくなりました。このいわば「か」初診の「規制緩和」が先の贈収賄事件の裏取り引きで行われたのです。この裏取り引き自体ももちろん大問題ですが、私たちの所属する保険医協会では、この「か」初診そのものに対して反対をしてきました。それは、ひとつには「か」初診の算定に際し、患者の意志が不在であるということ、そして「か」初診と通常の初診と2つの初診料の設定があり(一物二価)、その適用基準が曖昧ということによります。
 主治医かどうかは診療所を利用する側が決めることであり、歯科医の側が決めるというのは本末転倒です。また、もし詳細な情報提供が必要なら、たとえば通常の初診料に加え、「情報提供加算」といったものを制定すべきだと考えています。さらに主治医としての機能をもたせるなら、「長期管理加算」という性質の項目を制定してもいいかもしれません。さらにかかりつけになると初診料が高くなるというのもおかしな話です。

 さて、診療所を利用する側にとってみれば、診療報酬は安ければ安い方がいいという考えも当然あります。しかし、出来高払い制(診療行為にそれぞれ点数という「価格」が定められている)が中心のわが国の医療制度の下では、診療行為に対し不当に低い評価がされていると、ともすると過剰診療(本来必要な診療行為以上の診療)や過剰投薬、過剰検査、より採算性の高い治療等に誘導される素地をつくる恐れがあります(もちろんこれらは医師として許されることではありませんが)。 つまり適正な評価がされていないということは、結局は国民の利益にはつながらないのです。患者さんに本当に必要な治療や情報提供が無駄なく適切に行われるよう、医療制度は改善されなくてはなりません。医科と歯科の初診料格差の是正は今後とも堂々と訴えていこうと考えています。
以上の理由から、当医院では「か」初診は採用していません。
2004,6
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