入れ歯を入れないわけ


 いろんな原因で歯を失った時、入れ歯を入れます。
なぜ入れ歯を入れるかというと、入れ歯がないと噛めないから、そして見た目が悪いから。
当然ですね。端的な例が総義歯、つまり総入れ歯。自分の歯のようにとはいえないまでも、逆にいうと入れ歯がないと噛めないものもたくさんあります。そして入れ歯を入れないと口元が落ち込んで、実際の年令より老けて見えたりあるいは貧相に見えたりします。できれば若々しく、豊かに見られたいものです。
つまり、これは御本人が入れ歯を入れる理由ですね。
私たち歯科医の立場からすると、歯を失った方に入れ歯を入れてほしい理由はというと、これらとはちょっと違います。
噛めないものがあると食事に偏りが生じ、栄養面で問題が起こる、これは御本人の事情とやや似ています。また、老けて見えるとそれがコンプレックスとなり行動が消極的になり、ひいては精神面に問題生じる可能性が少なからず生じる、これも共通していますね。もちろん、総義歯を装着しないと顎が必要以上に閉じるため、顎関節に影響が生じやすいという面もありますが、総義歯の場合は、比較的御本人の理由とこちらの理由とが一致するのです。
 では、奥歯の片側2、3本を失った場合はどうでしょう。噛めないかというと、反対側は全部揃っていますから、そちらを使えばとりあえず噛めないものはない。見た目も、奥歯だから人からは気づかれないし、顔の相もほとんど変わらない。つまり、入れ歯を入れなくてはならないという必然性が御本人にはあまりないのです。それにひきかえ、入れたくない理由は異物感、よくいう「はばったい」ということで、これひとつで十分条件になりうるのです。2、3本の歯の欠損ですから、骨もそれ程吸収していない、その部分に床がのる、しかも左右が非対称、そのうえ歯のある部分にも金属の線がわたる、時には金具が見えるようになったりと、異物感を感じないはずはありません。
 では、歯科医からみるとどうか。片側だけ歯が揃っていると、どうしてもそちらばかり使うため、左右の顎関節やそれに付随する筋肉等にアンバランスが生じ、顎(がく)関節症などの症状の原因になりやすくなります(では、入れ歯を装着すれば左右が同じように噛めるかというと、必ずしもそうならないところが説得力に欠けるのですが) 。また、抜いたままにしておくと、噛み合う相手の歯が抜いた部分に噛み込んできたり(挺出「ていしゅつ」といいます)、隣の歯が倒れ込んできたり(傾斜といいます)と、あとあと面倒な事態になります。
 この、御本人と私たちとの温度差をどうやって埋めるかが意外に難しいのです。入れ歯の床をなるべく薄くしたり、可能な範囲で小さくしたり、金属の線をなるべく舌が触れない部分に設定したり、形状を調整したりと、苦心惨憺しているのです(言い訳になりました-入れている御本人はもっと大変な思いをしているのも重々承知しています)。いずれにしても、両者でここまでなら譲れる、我慢できるというところまで折り合いをつけていくことが肝要です。長いおつき合いになりそうですね。
 で、それでもなおかつ入れられない場合は、入れられない理由を考えながら、アタッチメントという金具の見えない入れ歯やインプラント(人工歯根)等、別の方法を選択することもできます。
 ただし、これらは保険外ですので料金が高くなるのが問題ですが(料金については待ち合い室に提示してありますが、詳しくは直接お聞きください)。 とにかく、いっしょによい方法を模索してみましょう。

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