そうだったのか語源⑲ −スポーツに関わるトリビア−

今回は、スポーツにまつわる言葉の由来を幾つか取り上げてみたい。

 

*サッカー

サッカーという呼び名は米国で使われ、英国ではフットボールという。

足を使うスポーツだからfootballという名称は合点がいく。世界的には、フットボールの名称のほうが圧倒的に多く使われている。

ではsoccerとはいかに?

実は、正式名称はassociation footballというのだそうだ。このassociationの「soc(仲間の意)」に発音しやすいように「c」を付け、人を意味する-erをつけたものがsoccerである。語尾に-erをつけて通称とする呼び方では、rugby=ラグビーの通称がrugger=ラガーであるのと同様である。

さて、サッカーのルールにoff side=オフサイドというのがある。

「反則の位置」と訳されているのだが、これはもともと軍事用語で、「味方の戦力から外され、敵陣の陰に捕えられた兵士」を指したらしい。そこから、

「敵陣の中の、いてはいけない場所にいること」となったらしい。つまり自分や味方の側がon sideで、相手や敵側がoff sideと考えると理解しやすい。

敵陣、つまりゴール側に一人待っていて、そこへボールをパスすれば簡単に得点できて、ゲームとしては面白みに欠けるのであろう。

ちなみに英国では道路上でもこの用語は使われ、中央寄り、つまり対向車線に近いほうをoff side(相手側)、路肩側をon side(自分側)と呼ぶ。

 

*ラグビー

「ノーサイド」は、ラグビーでは試合終了のことを指す(英語圏でもかつては「No side」が使われていたが、現在では「Full time」が使われている)。

戦いが終わったら、両軍のサイドが無くなって同じ仲間だという精神に由来する。なんと崇高なスポーツマンシップか。

knock on=「ノックオン」は、ボールを前方に落とす反則を指す。knockには「叩く」という意味の他に「落とす」という意味もある。

 

*テニス

テニスのカウントの仕方は変わっている。

まず、0のことをlove=ラブと言う。

テニスは11世紀にフランスで始まった。フランスでは、卵を意味する

「l ’oeuf(ロェフ)」という言葉があり、0が卵に似ていることから、0を卵と呼び、それが後に発音の似ている英語のloveに転じたらしい(諸説あるが、本説が有力)。日本語でも0を「まる」というのと似ていまいか。

0の次が15で、30、40とカウントしていく。これにも諸説ある。

「時計の文字盤を4つに分けた」「14世紀頃、プレーヤー同士の賭けの際に使われていた1ドゥニエ銅貨が4枚で60スウという金額になるため、60スウの4分の1である15スウを1つの単位とした」「(テニスの前身であるジュドポームを行っていた)修道院の生活時間が15分単位であった」というものがある。いずれにしても、3ポイント目は40ではなく、45になるはずだが、forty fiveと発音するのが面倒なので簡略化して40としたとの説もある。

 

*野球

bullpen=ブルペンとは、野球場の投球練習場を指すが、もともとはbull=牛の囲い場のことである。諸説あるが、投手を、闘牛場や屠殺場に送られるのを囲いの中で待っている牛に見立てたという説が尤もらしい。

次に、左利き投手のことをsouthpaw=サウスポーと呼ぶ。

pawとは爪のある動物の足を指すが、口語で人の手の意味もある。つまり、「南の手」である。

かつて米国の野球場は原則的にホームベースが北西になるように作られていた。そのため、左腕の投手の手は南側から繰り出されたためにこの名前がつけられたという説が有力である。その他、米国南部出身の投手に左腕が多かったからという説もある。

投手と捕手を、蓄電池を意味するバッテリー=batteryというが、これはかつての蓄電池は2個一組だったそうで、その関係に似ているからという説、あるいは軍隊で大砲の発射を意味するラテン語のbattuere に由来するという説がある。後者では、チームを軍隊、ボールを大砲、投手から捕手ヘの投球を発射に例えているという。

野球チーム名でちょっと面白いのがロサンジェルス・ドジャーズ。

ドジャースの「dodger」とは、「ひらりと身をかわす人」という意味。

ドッジボールのdodgeもまさにその意味。

もともとドジャーズは、ニューヨークのブルックリンを本拠地とするチームだった。

当時、ブルックリン市民の足はトロリーと呼ばれる路面電車だった。

かつて日本でも、路面電車をトロリーバスと呼んでいた。

そのトロリーが来る度に、ひらりと体をかわしながら往来するブルックリン市民のことを、親しみを込めてtrolly dodgersと呼んだそうだが、これがチーム名の由来だとか。

 

*ゴルフ

一般的にOBといえばold boyで、学校の男子卒業生を指すが、ゴルフでは out of boundsの略で、「プレーできるエリア外」を意味する。boundにはボールが弾む「バウンド」という意味もあるが、その他「限界」「境界」という意味もある。

さて、ゴルフのスコア用語には鳥に関係するものが多い。

1903年、それまで誰もなし得なかったロングホールでのパー(標準打数)が破られた。その時のボールはまるで小鳥が飛んでいくように見えたとか。

そのため、パーより1打少ないスコアを鳥の幼児語でbirdy=バーディと呼ぶようになったそうである(英語ではTommy、Jimmy等、語尾に-yをつけて愛称とすることが多い)。さしずめ「小鳥ちゃん」といったところか。

そして、2打少ないスコアをさらに強いeagle=「ワシ」、3打少ないとずば抜けた飛行力を持つalbatross=「アホウドリ」と呼ぶようになったそうである。ちなみに滅多にないが、パー5のコースで4打少ないスコア、つまりホールインワンをcondor=「コンドル」というらしい。コンドルは、インカ帝国では天の神として崇められていたそうで、まさに神業なのであろう。

ちなみにパー(Par)は、もともとイギリスの株取引の用語で、金額が上下する株価の中で、一番基準となる数値のことをパーと呼んでいたそうである。

 

さて、ゴルフには、「ハンディキャップ」というルールがある。

「ハンディキャップ(handicap)」とは、英語の“hand in cap”が訛ったものだとか。

これはかつて、賭博やくじのような遊びで、大当たりで勝った人が、周囲の人が見ている中で、いくら入れたかわからないように取りすぎたお金を帽子の中に入れたことに由来するとされている。

あくまで遊びの中でのことなので、大勝ちした人は取りすぎた分を戻して一人勝ちを防ぎ、ゲームを長く楽しめるようにしたという。ある意味、人間らしい知恵といえよう。

ここから、「強い者と弱い者との差を事前になくしておく」ことを呼ぶようになったとか。

 

*ボクシング

リングが四角いからboxingではない。

boxには、動詞で「(平手や拳で)殴打する、殴り合う」という意味がある。

ちなみに、リング=ringとはもともと輪のように人々が手をつないで、その中で格闘したからというのが定説である。レスリングのリングはその名残とされている。やがて観客が見やすいように、高いところに上がって戦うようになり、選手が落ちないようにロープを張る際、ロープを張りやすいように四角になったそうである。だからring(輪)にcorner(角)があっても合点がいくのである。

さて、ボクシングの階級には面白い名前が付いている。

フライ級のfly=フライとは「ハエ」のこと、ウェルター級のwelter=ウェルターは「波のうねり」、bantam=バンタムは鶏の「チャボ」、feather=フェザーは「羽根」、cruiser=クルーザーは「巡洋艦」、そして以前あったmosquito=モスキートは「蚊」の意味である。脈絡のない命名であり、またチャボが羽根より軽いのは解せない。

 

*コーチ(番外編)

最近、いろんなスポーツでコーチが注目されている。コーチが物議を醸したスポーツ界もある。

訓練する人や指導者を指しているが、もともとcoach=コーチとはハンガリーのコチ(Kocs)という町で作られた四輪馬車のコチ(kocsi)に由来する。

それゆえ、バッグのブランドで有名なコーチには馬車のマークが付いている。

馬車が人や物を目的地へ運ぶことから、次第に「コーチ」という言葉自体が、「大事な人や物を運ぶ」「目的地に運ぶ」といった意味をもつようになったとされている。

つまり、「人を目的地まで運ぶ」→「目標達成をするためのお手伝いをする」のがコーチの職業、あるいは役割になったそうである。

(群馬県保険医新聞歯科版掲載のための原稿)