そうだったのか語源⑰ −略語について その2−

前回に引き続き、2文字のアルファベットの略語について触れてみたい。

ごく日常的に耳にするPRは、宣伝や布教活動を意味するpropagandaの略かと思いきや、実はpublic relations=宣伝の略だそう。ま、あまり大きな問題ではない。

proportional representationもPRだが、こちらは比例代表制を意味する。

さて、午前と午後をそれぞれAM, PMというが、これはラテン語のante meridiem (英語ではbefore noon) でPMはpost meridiem(英語ではafter noon)の略である。

このanteは、イタリアンのantipasto=前菜のanteで「前」の意、postはもちろん「後」の意である。meridiemは英語ではmeridianで、空に太陽(星などでも)が最も高く上がる時=南中、つまりは正午を意味する。ちなみに、日本語の正午の「午」は、十二時辰の午の刻(うまのこく)のうちで午の正刻である。十二時辰で「午の刻」は24時間制の11時から13時までの2時間を指す。

次に、ラジオにはAMとFMがあるが、前者がamplitude modulation の、後者がfrequency modulation の略で、それぞれ振幅変調方式、周波数変調方式と和訳されている。要するに、AMは電波の強弱で音を伝え、FMは電波の強さは一定で、電波の密度で音を伝える方式ということらしい(私は理系ながらこの辺は全く不案内である)。

2文字の略語が出たついでに、紀元前をBC、紀元後をADと表記するが、前者はBefore Christ、後者はAnno Dominiの略である。後者はラテン語だが、英語では(in the Year of the Load)で、「主(しゅ)の年において」といった意味になる。

ちなみに19世紀以降から、非キリスト教徒との関係からADをCommon Era(略:CE、「共通紀元」の意)、そして紀元前(BC)をBefore Common Era(略:BCE)に切り替える動きが広まっているそうである。

キリストに関係する略語で、クリスマスをXmasと表記することがある。

これにはギリシア語が関わっている。

ギリシア語には英語の “X” に似たような形の “chi” という文字がある。その “X” に似た文字が「キリスト」を表すギリシア語 “Χριστός(Christos)” の先頭の文字である。

“christmas” のことを “Xmas” と表記する習慣は数百年も前からあったそうで、当時は “X” という文字自体がキリストを表す略語として使われていたそうである。

さて、これまでの流れとはやや関連が希薄になるが、番号を表す文字にNo.がある。

「数」を表す英語はnumberだが、ラテン語ではnumero となる。numeroは正確にはin numberの意、「数でいうと」といったところか。

このnumeroの省略形がNo.である。ラテン語では語尾変化が多いので、最初の文字と最後の文字をとって省略形とすることがよくある。例として、医療用のカルテで「同じ、同上」の意味でdoと表記することがあるが、これはdittoの省略形である。

IQは知能指数と和訳されるが、intelligence quotientの略語である。最近ではさらにEQというものが注目されているが、これは emotional intelligence quotient=情動の知能指数の略語である。

IQが「知能」の発達速度を表すのに対し、EQは仕事への取り組み姿勢や人間関係への関心の度合いなどを感情という視点から表すとされている。ちなみにeducational quotient=教育指数もEQだが、こちらは内容が全く異なる。

2文字の略語はさらに続く。

EUはEuropean Union=欧州連合の略であるが、これはかつてのEC(European Community=欧州共同体)から発展し、外交や安全保障政策の共通化や、ユーロによる通貨統合の実現をめざす統合体を指す。

UNはUnited Nations=国際連合の略語である。ちなみにその全身である国際連盟はLN(League of Nations)である。

米国の首都、ワシントンD.C.のD.C.はDistrict of Columbia=「コロンビア特別区」の略である。米国には50の州があり、州立大学のように州ごとに法律や制度が異なることが多い。ワシントンD.C.には国の重要な機関が多くあり、「どの州にも属さない連邦政府の直轄地」という意味が込められている。コロンビアという名は、アメリカ大陸発見者コロンブスに由来している。ちなみにColumbus=コロンブスはラテン語で鳩という意味である。

プロ野球で使われるFAはfree agentの略で、どの球団とも選手契約できる権利を持つ選手を指す。ついでにDHはdesignated hitterの略で「指名打者」と和訳されている。我々が関係する医療分野では、dental hygienist=歯科衛生士もDHと略される。

OAはoffice automationの略で、事務作業の自動化のことをいう。それを逆にしたAO入試のAOとはadmissions office=「入学管理局」の略で、学力試験を課さず、入学管理局の選考基準に基づいて入学の可否を判断する選抜制度のことをいう。

OPと略される言葉は多い。以下に代表的なものを挙げてみる。

option=オプション、選択肢、選択権

opening=オープニング、番組やコンテンツの冒頭に使われる音楽や映像

operation=オペレーション、手術、処理、操作

opus(Op.)=オーパス、音楽などの作品番号

他にも枚挙にいとまないが、まずは今回このくらいにしておこう。

(群馬県保険医協会歯科版掲載のための原稿)