そうだったのか語源⑮ −国名都市名その3 番外編−

地理的な話題の3回目であるが、今回は脈絡もなく番外編という扱い方でご紹介することをご容赦願いたい。

さて唐突であるが、日本ロマンチック街道というルートがある。

まず、ロマンチック街道について触れてみたい。

これは、ドイツのヴュルツブルクからフュッセンまでの366kmの街道のことだが、この街道沿いには、中世の街並みや城塞が点在しており、いわば観光街道である。それはともかく、独語ではRomantische Straßeと表記され、「ローマへの(巡礼の)道」と和訳されている。日本語でいう「ロマンティック」は、ロマン主義や恋愛に関係したイメージが強いが、本来の独語の「ロマンティッシュ」あるいは英語の「ロマンティック」は、「ローマの」という形容詞である。せいぜい「ローマに繋がる」くらいの意味なので、「日本ロマンチック街道」とは、四方を海に囲まれた日本においてはありえない名称なのである。

もっとも、あまり深いことを詮索せず、「日本のロマンティックな通り」くらいに捉えて楽しめばよいのかもしれない。

同様に、「日本ライン下り」もやや似た発想の命名である。

本来、ドイツを流れるライン川を下ることを「ライン下り」と言い、ライン川ではない日本の川を下るのに、「ライン下り」と呼ぶのは解せない。

実は、美濃加茂市から犬山市までの木曽川渓谷の風景がドイツのライン川に似ていることから、この渓谷に「日本ライン」と命名したため、この渓谷の川下りが「日本ライン下り」と呼ばれるようになった。

一方「日本アルプス」という名前は、19世紀にイギリスの鉱山技師が飛騨山脈をヨーロッパのアルプス山脈に因んで命名したのがその由来である。ちなみに、「アルプス一万尺 小槍の上で」という歌があるが、小槍とは日本アルプスの槍ヶ岳の隣にある岩峰のことである。

本場ヨーロッパのアルプスにモンブランという最高峰がある。仏語でMont Blanc、つまり「白い山」という意味だが、同じ山を南側から眺めるイタリアではモンテ・ビアンコ (Monte Bianco=イタリア語で「白い山」)とよぶ。Blancは英語のblank=空白と同義で、ワインの白もBlancという表現をする。

余談になるが、ラテン語で「白」を意味するalbaという言葉がある。花でも白いもの、動物でも突然変異によって色素を失ったものをアルバ系という。アルバム=albumは、古代ローマ時代に議事録として使われた白い石版がその起源とされており、その後台紙を綴ったものを総称してそう呼ぶようになった。

ゴルフ用語のアルバトロス=albatross(アホウドリ)も、ラテン語で「白い」を意味するalbusとポルトガル語で「カツオドリ」を意味するalcatraz(アラビア語ではal-qaTraas 「ウミワシ」)との合成語で、「白く大きな海鳥」といった意味合いとなる(ちなみに、alcatrazはサンフランシスコ湾内に浮かぶ刑務所の名でもある)。

閑話休題。

さて、イタリアの作曲家ヴェルディ=Verdiは緑のこと、そしてモンテヴェルディ=Monteverdiは「青い山」(日本では青山さんといったところか)、国名のモンテネグロ=Montenegroは黒い山の意。ついでに、カナダのモントリオール=Montrealは「真実の山」という意味かと思ったら、近くにモン・ロワイヤル=Mont Royal=王の山と呼ばれる小高い丘があり、これが由来になっているとのこと。

パリのモンマルトル=Montmartreは、Mont des Martyrs、つまり「殉教者の丘」がその名の由来である。

ついでにモン・サン・ミシェル=Mont Saint-Michelは聖ミシェルの山の意、モンテカルロ=Monte Carloは「シャルル3世の山」の意味である。

再びドイツ語圏の地名に触れてみたい。

メルセデス・ベンツの本社があるドイツのシュトゥットガルト=Stuttgartは、Stutengarten(Stuten=雌馬の、garten=庭)から派生したものだ。ニュアンスとして、日本語の馬事公苑に近いか。

モーツァルト生誕の地、オーストリアのザルツブルク=Salzburgはご存知に通り「塩の砦」の意で、近隣で産出される岩塩の積み出し場があり、かつて大司教がその積載量に応じた通行税を徴収し財源としていた。ちなみに、モーツァルトと大司教との軋轢は有名であり、セレナード「ポスト・ホルン」の作曲に際し、司教との決別にまつわる逸話が残っている。

ドイツ・バイエルン州に、ノイシュヴァンシュタイン城という有名な城がある。カリフォルニアのディズニーランドの「眠れる森の美女」の城のオリジナルとなったという城で、おとぎ話に出てくるような美しさと讃えられている。

ノイシュヴァンシュタインとはドイツ語でNeuschwansteinと表記し、和訳すれば「新しい白鳥の石(岩)」となる。もともとシュヴァンガウ地区(和訳すれば「白鳥地区」)にあったシュヴァンシュタイン城にちなんで名付けられた。

日本でも姫路城を白鷺城と鳥の姿に比喩するが、これは単なる偶然であろうか。

ノイシュヴァンシュタイン城は誰が見ても絵になる美しさであるが、意外にも、伝統的な石造りではなく、鉄骨組みのコンクリートおよびモルタル製で、古建築保存を目的とする世界遺産にはなっていない。美しいイメージが壊れないことを願いたい。

バイエルンで忘れてならないのは、BMWという自動車メーカー。

BMWとはBayerische Motorenwerkeの頭文字で、和訳すれば「バイエルン自動車製作所」、BMWのままのほうがイメージを損なわないようだ。

さて、前出のアルプス山脈に名峰ユングフラウ=Jungfrau(独)がある。

アイガー、メンヒとともにオーバーラント三山の一つである。

ユングフラウは独語で「若い娘」あるいは「処女」という意味だが、これは山の所有者であるインターラーケン=Interlaken(湖の間の意)にあった女子修道院の修道女がその名の由来とされている。

メンヒ=Mönchは修道士の意味だが、これは修道女に相対して名付けられた。

一方アイガー=Eigerの名は、その尖った形に由来しているとされている。

ただ、ラテン語で鋭いという意味の“アケール”(acer)が由来という説、独語で槍の意味の“ゲル”(Ger)が由来という説があり、言語学者の間でも意見が分かれている。

話は変わって、オランダという国について。

自国オランダ語ではNederland(ネーデルラント)と言われている。

俗称の「Holland(ホラント)」もよく使われるが、これはスペインの支配に対して起こした八十年戦争で重要な役割を果たしたホラント州(現在は南北2州に分かれる)の名に由来している。

通称ホラントと呼ばれていたのが、ポルトガル経由で「オラント」「オランダ」と伝わったようである。 ちなみにこの「オランダ」に近い呼称は日本だけで使われているわけではなく、他にもHolland由来の国名で呼んでいる言語もある。

(群馬県保険医協会歯科版掲載のための原稿)